IT技術を活用した 災害時の新しい支援の形 「平成29年7月九州北部豪雨」から5年

人流データを活用し、迅速な救援を

2017年7月九州北部豪雨災害では福岡県支部、大分県支部が被災地で医療ニーズ の調査および巡回診療を実施した

 2017(平成29)年7月、九州北部を襲った豪雨災害は死者・行方不明者42人、全壊家屋300棟以上となる大きな被害をもたらしました。日赤は災害発生直後より医療救護のニーズ調査や救護班による巡回診療などを開始。インフラや交通ルートが寸断された集落も徒歩で巡回し、孤立地域への支援という課題に直面しました。

 これ以降も大きな災害が多発しています。こういった自然災害に立ち向かうべく、位置情報ビッグデータを活用した新しい取り組みが始まっています。熊本赤十字病院の救援課長で、日本赤十字看護大学附属災害救護研究所の部門長でもある曽篠恭裕(そしの・やすひろ)さんにお話を聞きました。

soshino_IMG_7212_1024.jpg「ここ数年の豪雨災害では、線状降水帯による集中豪雨で広範囲な地域が多発的に被災し、短時間で被災状況の把握が難しいことが共通課題です。このため、災害救援技術部門では、携帯電話の位置情報ビッグデータを用いた広範囲の避難状況の把握と、孤立地域の支援について研究しています。

2年前の熊本豪雨災害では、私たちはまさしく当事者になってしまいました。

熊本県南部の球磨川の周辺で夜間にかなりの降水があり、翌朝、人吉地区の風景が全く違うものになっていました。過去の災害を通じて携帯電話の人流データの有効性を把握していたので、すぐに位置情報サービスを提供しているAgoop社から情報を入手し、交通網が寸断され避難状況を把握するのが難しかった人吉地区や球磨川上流などの人流とハザードマップを照らし合わせ、調査の優先順位をつけました。

初期の災害対応支援で人流データを活用できた日本でも先進的な事例です」

 赤十字にとっても迅速な救援のためにこういった技術を上手に使うことが、ますます必要になってくる、と曽篠さんは考えます。

「今できることは限定的ですが、新しい技術をあらゆる災害に役立てられるよう研究を進めていきます。災害時の人流データからは、どのエリアの人がいつ、どう逃げたのかなど、実際の人の動きを可視化できるので地域の災害時の避難傾向もわかりますし、いち早く避難場所を特定して、電力確保のための外部給電車両を効率的に配置することもできます。

また、これを防災教育のツールとして組み込めば、より進化した防災訓練も可能になります。

素晴らしい技術も研究者が保有しているだけでは意味がなく、ユーザーと一緒に活用を考え、デザインし、社会実装を進めていくことが重要です。我々は新たな救援技術の基礎研究だけでなく、その橋渡しも大事な仕事だと思っています」

 IT技術を活用し、今後の救護活動や支援も大きく前進することが期待されています。

Agoop社提供の人流データ画像。災害時の人流を通常時のデータと比較するとひと目で違いがわかり、リアルな避難状況が把握できる