PROJECT 01

救急法講習
~外国人との共生を目指して~

愛知県支部

近藤 佑介

外国人との共生。それを地域での「自助・共助」いう視点から向き合った近藤の挑戦には、どんな想いが込められていたのか。

多文化共生という課題に対して
赤十字だからできる貢献があると思った

日本に暮らす外国人がみな十分に日本語を理解するとは限らない。災害時、日本語を母国語としない外国人は、特別な配慮を必要とする「要配慮者」となる。しかし、外国人であっても自分の身を自分で守るだけでなく、人を助ける側にまわることができれば、言葉の壁を超えた更なる共助が可能となる。そんな未来を実現するため、愛知県支部の近藤の挑戦が始まった。愛知県は、外国人の居住者数全国第2位。製造業や農業が盛んで、働き口を求めて多くの外国人が居住している。しかし、外国人居住者の地域コミュニティへの参加などには、未だ課題が残されている。加えて、愛知県は、南海トラフ地震などの大規模災害の発生が危惧されている地域でもある。多文化共生が喫緊の課題となる中、県は『あいち多文化共生推進プラン』を策定し、急増する県内の外国人への対応を急いでいる。近藤は、こういったニーズや課題を拾い上げ、事業として立案し、実施することが赤十字の職員に求められていることだと考え、取り組んだ。自分の身を守り、さらに助ける側の人間を養成することは、被害の軽減、すなわち減災にも繋がる。自助・共助は、地域で防災・減災を広める赤十字の使命でもあるのだ。

形に残るものを作って満足してしまいがちだが、
本当のゴールはその先にある

「まずは、教材を作ることにしました。日本語が得意でない方でも内容が理解でき、応急手当に関する知識を身につけられるテキストです。」既存の赤十字救急法のテキストは、複雑な漢字や表現を使用しており、理解が難しい。そこで「やさしい日本語」で制作することにした。その制作過程にもこだわったという。「私がやったのは、最後の編集だけ。基本的には救急法指導員資格をもつボランティアの皆さんに執筆してもらいました。できた教材を使うのはボランティアさん。自分たちで作ったほうが使いやすいでしょうし、愛着も湧くと思ったんです」。ボランティアへの協力要請に始まり、大学教員などの有識者にも協力を仰いだ。「言葉の壁を超えた自助・共助」を目指していると説明すると、誰もが共感してくれた。そして1年以上の制作期間を経て、無事に教材は完成した。しかし、これで終わりではない。「教材を作るのが目的ではありません。これはあくまで、ツール。我々職員が教えて終わりではなく、身を守る方法や手当の方法を教える指導員も外国人にも担ってもらう。そうでないと意味がありません。最初からそう思っていました」。

外国人指導員誕生。
情熱を持って取り組めば、
その熱は必ず伝播する。

教材の作成と同時に、各自治体の国際交流協会と連携して、外国人住民に対して救急法講習の開催を続けていた。そこで出会った3人の外国人が近藤の思いに共感し、ボランティアに参加したいと申し出があった。「日本語の能力も申し分ない。是非指導員になってもらおうと」。しかし、指導員になるためには10日間におよぶ養成講習を受け、検定に合格する必要がある。救急法の講習を何回も受講した受験生でも不合格者が出る難関だ。そこで、3人のために特別に養成講習を実施することにした。外国人を対象とした養成講習は、日本赤十字社では初めての取り組みであった。「彼らの熱意を無駄にしないためにも、そして日本赤十字社としても第一歩を踏み出せるように、絶対に全員合格させようと必死でした」。専門用語の読み書きや意味を1字ずつ丁寧に教え、実技も合格レベルに達するまで手取り足取り指導する日々。3人のやる気と熱意に、近藤も全力で応えた。そして1年後、全員が無事に合格。「今では3人とも立派に講習を運営しています。その姿を見ると、頑張ってよかったなと本当に思うんですよ。でも、まだ3人。もっともっと増やしていかなくては。いずれは、指導員含めて日本人・外国人関係なく、同じ地域に暮らす人々が助け合えることを当たり前にしたいんです」。愛知だけではなく、日本全国に言葉の壁を超えた地域での多文化共生の精神が根付いたとき、近藤はまた新たな課題に挑戦しているだろう。

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