• photo: Hikari Koki
  • text: Ikuko Hyodo
  • 大原真樹さんと考える、モロッコと国際支援。

    表参道に実店舗を構える「Fatima Morocco(ファティマ モロッコ)」は、日本でも指折りのモロッコ雑貨専門ブランド。革製のスリッパであるバブーシュ、かご、ランプ、食器‥など伝統の手仕事の品に、センスの光る刺繍などが施され、“ここにしかないもの”で溢れた唯一無二のショップだ。運営するのは、バイヤー、スタイリストなどを経て18年前に「Fatima Morocco」を始めた大原真樹さん。モロッコ雑貨に魅せられ、モロッコ渡航回数は130回にのぼるという彼女に、モロッコの魅力と、現地の抱える現実などについてお聞きしました。

    モロッコの大地で魅せられた、鮮やかな色彩。

    大原真樹(おおはら・まき)さん。アパレルのバイヤー、スタイリストを経て、2006年にモロッコ雑貨専門ブランド「Fatima Morocco」をスタート。「プライベートで旅行したモロッコに魅せられました。独立したいのでは無く、“モロッコありき”で店を持つことにしました」

    大原さんが初めてモロッコを訪れたのは、2000年のとき。アパレルショップの店長だったその10年ほど前、モロッコ雑貨に魅せられて以来、思いを馳せていた国でした。

    「最初に惹かれたのは色でした。モロッコは色彩の国で、空や山のような自然の色が豊かで、その景色の中にある建物や伝統工芸の雑貨などがとても映えるんです。アフリカの土着な雰囲気だけでなく、フランス領土だったこともあってエスプリが効いている。ファッションに興味のある、日本の女の子たちに紹介したい! と思いました」

    立ち上げ当初から変わらないかご、バブーシュに加え、布製品、革のオットマン、絨毯などカラフルでポップな品々が並ぶ。商品に共通しているのは、「伝統の手仕事」であることだ。

    そして2006年、「Fatima Morocco」を立ち上げます。ブランドとして最初に扱ったのは、革製のスリッパであるバブーシュとバスケット。大原さんは、当初からあるこだわりを持っていました。

    「現地のものをただ仕入れるだけではなく、刺繍をひと手間加えるなどして、オリジナルのアイテムを作りたかったのです。そのためには、パートナーとなる職人さんを見つける必要がありました」

    手仕事が得意な人は多いものの、ハードルになったのは納期と品質管理。期日をしっかり守り、なおかつ日本の厳しい検品をクリアできる人材を探すのは、簡単ではありませんでした。そこで着目したのが、当時流行っていたブログ。

    「ブログをやっているモロッコ在住の日本人を探し、仕事を手伝ってもらえないか、ひとりひとりに声をかけていきました。そのときのご縁で、今も一緒に働いている人もいます」

    社会の影に隠れた女性と仕事をするために。

    表参道の実店舗「Fatima Morocco TOKYO」内に飾られた、現地の女性たちの写真。50年以上前の様子だが、内職として仕事をしている女性が多いという現状は変わらない。

    仕事としてモロッコに関わるようになり、良い面だけではなく、さまざまな問題も見えてきます。そのひとつが、イスラム教の伝統による男女格差。

    「ブランドを立ち上げて間もない頃は、とにかく男の人を通さないと、女性に刺繍の仕事をお願いすることができませんでした。というのも伝統工芸の工房などは、男女が同じ空間で仕事をしないのが基本で、多くの女性は家事の空いた時間に内職として刺繍を行い、家の外に出ることがほとんどなかったのです」

    いまではすっかり定番となったバブーシュ。18年前のブランド立ち上げ時にはほぼ知られていない存在だった。大原さんが考えたデザインを、現地の女性たちが刺繍する。

    必然的に仕事を依頼する窓口は男性となるため、実際に作業を行う女性たちと大原さんが顔を合わせる機会もほぼ皆無でした。

    「私は窓口の男性にキャッシュ・オン・デリバリー、つまり商品と引き換えに現金をお支払いしていたのですが、女性たちに適切な対価が支払われていなかったり、ツケにされていることが判明して。彼女たちと直接やり取りする方法を模索しました」

    そこで生み出されたのが「手の面接」。まずリーダーになってくれる年長の女性を探し、彼女を介してみんなに刺繍を依頼。成果品のなかから納期を守り、仕事が丁寧な女性を選んで、その都度対価を支払います。双方にとってプラスになるこのシステムは、やがて現地の女性たちの間で口コミで広がり、優秀な人材が集まってきたのです。

    コロナ禍を経ての地震。自己満足で終わらない支援とは。

    9月の地震の直後、モロッコのスタッフが撮影した現地の様子。Fatima Moroccoの工房も被災した。

    新型コロナウイルスのパンデミックは、モロッコの伝統工芸にも少なくない影響を及ぼしました。

    「観光客を相手にしている店が数多く閉じましたし、商品が売れないので、農業に転職した職人さんも多いですね」

    最近ようやく観光客が戻ってきて、ほっとしたのも束の間、2023年9月8日、モロッコ中部の山岳地帯でマグニチュード6.8の地震が発生。

    「日本全国の方々から、たくさん問い合わせをいただいたのですが、Fatima Moroccoとしてどんな支援ができるのか、現地の情報が錯綜していたこともあり、とても悩みました。必要としているところに確実に支援を届けたかったので、まずはモロッコの状況を正しく把握した上で自分たちがやるべきことを考えました」

    同じく、モロッコのスタッフが現地で撮影した物資の様子。必要とされている毛布が寄せられていた。

    日本の場合、被災地に真っ先に送るものとして、水や食料をイメージする人は多いはず。

    「その点モロッコは、大抵の家に家畜がいますし、農作物も豊富にあります。今回大きな被害を受けたのは、山沿いの村々にある土壁の家なので、優先的に必要なのはテントや毛布だったのです。それを把握した上で、私たちの現地スタッフが毛布を届けたりもしたのですが、自己満足で終わらない支援をしなければいけないと痛感しました」

    さらに大原さんは今、継続的な支援の大切さを感じています。

    「家や学校をなくした村が日常を取り戻すには、長い時間がかかります。私たちが伝統工芸の品々を息長く売り続けることが、現地の人の安定した雇用となり、その後の支援にもつながっていくと思っています」

    地震発生から間もなく、モロッコに降り立った大原さんは、人々の明るさに救われたそう。

    「些細なことから災害まで、彼らにとっては『神のみぞ知る』ことで、一日に何度もこの言葉を口にします。大変なときほど、その明るさがいい方向に働くのを長い関わりのなかで見てきましたし、彼らならきっとこれからも大丈夫なはず。だから私たちも、ネガティブな情報ばかり注目せず、前向きに応援していきたいですよね」

    CHECK!

    赤十字社(赤新月社)のモロッコでの支援とは

    現地時間9月8日午後11時11分、マグニチュード6.8の地震が発生。地元のモロッコ赤新月社(現地の赤十字社)は、ただちに救護チームを出動させて、住民たちの応急救護を開始。倒壊・損壊した建物は数万棟以上とみられ、山間部域では冬を前に気温の低下が予測されるため、喫緊のニーズとしてテントを含む避難所、毛布、マットレスなどの提供に重点を置きました。
    国際赤十字、そのうちの一社である日本赤十字社はモロッコに限らず、国内外における災害救護をはじめ、苦しむ人を救うために現地のニーズに寄り添い、幅広い分野で継続的な支援活動を行っています。

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