東海豪雨から20年 愛知を襲った水害をあなたは覚えていますか

平成12年9月11日から12日にかけて、東海地方は記録的な豪雨に見舞われました。当時日本付近に停滞していた秋雨前線と沖縄近海で発達していた台風の影響を受けていわゆる「線状降水帯」が形成され、激しい雨を降らせたと考えられます。記録によると愛知県下では名古屋市、新川町・西枇杷島町(現・清須市)大府市、東浦町などを中心に6万棟を超える家屋が床上・床下浸水するなど大きな被害を受け、21(※当時の市町数)の市町において災害救助法が適用されました。

名古屋の観測点における1時間雨量は97.0mm、日降水量は428.0mmそして最大24時間降水量は534.5mmを記録し、現在もその記録は同地点において歴代1位のままです。

災害発生から20年を迎えた今年、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、避難行動にも感染対策が求められる一方、各地域における防災訓練への参加機会は減少している状況の中、いつ起こるかわからない災害に私たちはどう備えたらいいのか。災害の記録や体験談からそのヒントを探します。

画像 被災があった地域では道路が冠水し、交通網が遮断された

画像 孤立した地域へボートで救護に向かう赤十字職員

その時赤十字は

愛知県支部は11日19時に第二非常配備をとり、21時には災害対策本部を設置、情報収集や救援物資積込作業などの活動を開始しました。特に被害が甚大であった西枇杷島町へは、医療救護班を派遣し、避難所の巡回診療や町内に設置された救護所での診療を行いました。

また、本社や各県支部の応援により、毛布、日用品セット、見舞品セットなどの救援物資を名古屋市、西枇杷島町、新川町などをはじめとする被災地へ配布しました。また防災ボランティアも全国の支部から集まり、被災地の復旧へ大きな役割を果たしました。

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そのとき避難所は

想定外のことばかり起きる避難所運営

堤防を決壊した水は夜のうちにあっという間に町へ押し寄せたので、逃げ遅れて泥水に腰まで浸かった状態の避難者が多く来られました。皆さん体を洗うために水を使用されたのですが、気が付いた翌朝には4トンもあった貯水は一晩で底をついてしまいました。そのためトイレを流すにはプールから水を運ぶ必要があり、避難者の皆さんも手伝ってくれましたが大変苦労しました。

また、電気も止まってしまったためパソコンやコピー機も使うことができず、避難所の受付名簿を手書きして作らなければなりませんでした。

始めは体育館に避難していましたが、目の前の新川の水位が堤防まであと30センチほどのところまであがったため、途中で避難者の方々に2階以上の教室へ移ってもらうことになりました。エアコンも扇風機もない教室で、配給の毛布を床に敷いて過ごすのですが、これが非常に暑く、風を通そうと窓を開ければ蚊が入ってくるという大変辛い状況でした。

画像 当時新川小学校の教務主任として避難所運営に携わった太田慎一さん

イメージしていた避難所とのギャップ

それまでのイメージでは、避難所となれば全国から支援物資が届いたり、炊き出しが行われたりと様々な支援の手が差し伸べられると思っていました。しかし周囲の道路が大人の腰まで水に浸かり孤立した状態の当校に届いたのは配給の菓子パンだけ。それも数日続くと、なぜ毎日菓子パンなのか、炊き出しはないのかなどと避難してきた人から不満の声が上がりました。

そんなとき、避難していた児童がパンの配布を手伝ってくれ、避難所内に「ありがとう」という言葉と笑顔が戻りました。これはとてもありがたかったです。

困難なときこそ思いやりの心を

児童の活躍もそうですが、避難所は【避難してきた皆で、長い避難所生活をどのように快適に過ごせるか】を話し合い、助け合って運営していくものなのだと思います。新川小はそれがよくできていた避難所でした。

街からやっと水が引いて避難者が自宅に戻られたその日、使用されていた校内の清掃に行くと、教室もトイレもとてもきれいに掃除されており、元通りに並べられた机の前の黒板には、なんと学校へのお礼のメッセージが黒板一杯に書いてありました。
いろいろと苦労の絶えなかった避難所運営でしたが、この教室の光景は忘れられない嬉しい記憶です。

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そのときボランティアは

コーディネーターデビュー戦

私は県の防災ボランティアコーディネーター養成講座修了者として、愛知・名古屋水害ボランティア本部のもと、北部水害ボランティアセンター(北部VC)の運営に関わりました。15日からボランティア受付を開始すると、最初の3日間には毎日数百名のボランティアが集まり、そのオリエンテーションや相談対応、ニーズへの割り振りなどを担いました。

画像 ボランティアセンターの運営に関わった新谷倫泱さん(現 愛知県赤十字災害救護奉仕団員)

マニュアル通りにはいかない

まず苦労したのは被災地と北部VCとのアクセスです。北部VCと被災地とは公共交通機関で40分程度のところにあり、ボランティアの移動手段の確保に大変苦慮しました。ですので、市バス特別便の無料運行が決まったときには、とても嬉しかったです。

当時は通信環境も悪く、被災地では電話もつながりにくかったため、連絡調整も容易ではありませんでした。そのため現地にニーズ受付のためのサテライト窓口を置くことを決めました。

ボランティアの主な活動内容は、浸水した家屋の家財道具の片づけや畳の運び出し、泥の除去や拭き掃除など様々でしたが、当初の依頼内容とは異なることを現地で突然頼まれ、ボランティアが困惑するケースもありました。そういったボランティアからの報告を受けたり、相談対応を行ったりするのもコーディネーターの役割でした。

そして各地のボランティアセンター閉鎖後、戻ってきた資機材のあと片づけもボランティアが担いました。県庁に集められた汚れたスコップや長靴を洗浄して片付ける作業でしたが、実はこれが一番大変だった記憶があります。

活動を振り返って

ボランティアセンターにはさまざまな人が集い、それぞれの多様な能力を活かして活動していました。そういったいろいろな人々の協力があって、北部VCを運営することができたと思います。
 
もちろん災害は起こらないのが一番ですが、この東海豪雨が名古屋の防災ボランティアを育てたとも言えるんじゃないかと思います。

当時の雨の様子

平成12年9月11日、この日は人生で一番の雨が降りました。
後にも先にも体験したことないような猛烈な雨だったと記憶しています。
千種区にあった自宅前の道も冠水し、玄関に土嚢を積んで浸水対策をしなければなりませんでした。

画像 当時一番の若手防災ボランティアだった野牧泰士さん (現 愛知県赤十字災害救護奉仕団委員長)

救援物資の配布に奔走

12日の朝早く、応援依頼の電話をもらって支部に駆け付けました。支部へ向かう途中、いつもは交通量の多い道路がこの日は車の姿はなく、いつもと違う異様な静けさでした。待っても待ってもバスが来ず、居合わせた方とタクシーに相乗りしたのですが、その方が私の着ていた赤十字ボランティアのベストに気づき、タクシー代はいいからと送り出してくれたことは今も忘れられません。

支部に到着すると、すぐに救援物資の調整に加わりました。本社をはじめとする全国各地から大量の救援物資が届きましたので、それらと各地域からのニーズを把握して物資配布計画を作成するとともに、届いた荷物の積み下ろし作業を行いました。

9月14日からは県庁の愛知・名古屋水害ボランティア本部横に赤十字のボランティア受付が設置されたため、こちらを担当しました。全国から駆け付けてくれた赤十字ボランティアを、県内各地のボランティアセンターのニーズに合わせて振り分けをする役割でした。

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これからの災害への備えについて

当時と比べ、気象レーダーの技術は格段に進歩しました。これを使わない手はありません。
最近は自然災害が頻発しており、災害が珍しくなくなりましたが、私たちは慣れてくるとどこかでまだ大丈夫と思ってしまう危険があります。現代は情報が多く入る分、受けとり手の判断が重要になってくると思います。
 
また、コロナ禍では密集を避けるため、水災害などの状況に応じて自宅高層階に垂直避難という選択肢も考えられると思います。この場合、非常持出袋に加えて、浸水を避けて高層階に置く非常用備蓄(水や食料、作業着、衛生材料、日用品、虫よけ、コンロなど在宅避難に役立つ道具を入れた丈夫な箱など)が有用だと考えています。

さらに感染拡大の状況によっては県外のボランティアが活動できない場合も想定されます。顔の見える近所の繋がりの中における助け合いが、改めて必要になるのではないでしょうか。

東海豪雨体験者の皆さんの、備えの工夫を伺いました

  • 東海豪雨で水に苦労した経験から、自宅2階に備蓄水を70本程度備えています。(太田さん)
  • 最近は着替えることのできるプライベートスペースのある避難所も増えてきました。
    特に水災害は持出袋に着替えを忘れずに入れておくと良いと思います。(新谷さん)
  • ノートと色鉛筆、トランプなど、気分転換できるものを用意しておくとこころの余裕に繋がります。
    あとは電気は個人的に一番大切だと思っているので、モバイルバッテリーも必ず常備しています。(野牧さん)

これからの災害に備えて

日頃からハザードマップを確認し、地域の危険箇所や避難場所などを知っておくことはもちろんですが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、新たに感染対策を考慮した避難行動などの防災関連情報が発信されている場合があります。まずはお住まいの市町村のホームページなどを確認し、最新の情報を入手しておきましょう。

新型コロナウイルス感染症の蔓延期には、避難所内においても感染症対策に万全を期すことが重要です。避難所の感染対策のために、 非常持出品に以下のような感染対策物品などを加えておくことが推奨されています。

当支部でも、災害時に開設される指定避難所等の環境整備支援を目的として、マスク、消毒液、段ボールベッド、パーテーションの整備を進めています。