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総合職として働く【新卒】
これからの赤十字 vol.2

血液事業
私の赤十字の原点とこれからの血液事業
血液事業本部 経営企画課長
中西 英夫
-これまでのご経験の中で印象に残っていることを教えてください。
「そうですね。入社して半年くらいの頃に、通りすがりのご婦人から掛けられたひと言でしょうか。もう20年も前のことですが、東京郊外の駅前で、片手にプラカードを持ち、もう一方の手で大型の重いハンドマイク付スピーカーを肩から下げての献血のお願い、いわゆる『呼びかけ』を行っているときの話です。突然、小柄な初老のご婦人が私に近寄ってきましてね、『いつもご苦労様です。私の娘がお産の時に大量出血してね、大勢の人の血液を輸血してもらって一命を取り留めたんですよ。血液を集めてくれる貴方や献血してくれる皆様のおかげです。本当に感謝していますよ。』と声を掛けられたんです。あの時のご婦人の言葉は、目頭が熱くなるほど嬉しかったですし、あのひと言が私の赤十字人生を支えていると言っても過言ではないですね。
献血の呼びかけをしていると、通りすがりの人たちは、『何をやっているのかなあ』と怪訝そうにこちらを見て、そして、それが献血の呼びかけだと判ると、『なんだ献血か。私には関係ない』とばかりに目をそらしたり、『また献血か。うるさいな』と横目で睨まれたりするようなことがよくありました。だから私は呼びかけが嫌だったんですが、『赤十字の看板を背負ってやってるんだ』と自らに言い聞かせて呼びかけをしていました。そんなときに、そのご婦人から感謝の言葉を面前で聞かされまして、私たちのやっていることは、病に苦しむたくさんの患者さんのためであることを思い知らされ、嬉しかったのと同時に身の引き締まる思いをしたことを今でも思い出します。
それからは、自信を持って『笑顔』で献血のお願いができるようになった気がします。今、日本全国で1日に約1万人~2万人の方に献血にご協力いただいています。そのいただいた血液を検査し、血液製剤として製造し、そして患者さんのもとに365日24時間体制で何処へでもお届けすることが、私たち血液事業に携わる職員の仕事です。これは一見何気ないことのように思えるかもしれませんが、『人の生命を瀬戸際で支える』という本当に大切な仕事なんです。」
-今後、血液事業にはどういう取組みが必要だとお考えですか。
「季節や地域にかかわらず、血液の在庫量を十分に確保していくことは永遠の課題ですが、それに加えて、これからは「満足度」ということも考えなければならないと思っています。
近年、『お客様の満足度』ということが注目されていると思います。敢えてお客様の苦情を積極的に集め、その声を反映した事業を展開し、業績を上げたという企業の成功例も耳にします。血液事業における『お客様』は『輸血を受ける患者さん』と『献血にご協力いただける方』ということになりますが、これからは、それぞれの『満足度』を高めるという視点がなければ、血液事業の発展はないでしょうね。
『満足』というものを考えるためには、『ニーズは何か』ということを考えなければなりません。患者さんにとっての最低限のニーズ、それは『いつでも、どこでも迅速かつ安定的に血液を届けてもらえるかどうか』ということでしょう。これは当然のことで、私たちも血液事業の大前提と考えていますが、次に考えられるのは『安全性』ですね。血液はヒトの臓器の一部であるため、輸血には感染症などのリスクが存在するわけです。日赤では、患者さんにお届けする血液の安全性を高めるため、(注1)核酸増幅検査や(注2)血液中の白血球を除去する仕組みを導入し、世界トップクラスの技術と安全性を誇ってきましたが、これに慢心することなく、今後も(注3)感染性因子の不活化技術の導入など、患者さんが安心して輸血を受けることができるよう『安全性』の追求のため日夜努力していきます。
それから事業の効率性を高めるということもどこの業界でも共通でしょうね。日本赤十字社は、国の負託を受けて血液事業を行っているわけですが、それ故に自ら進んで事業を改善し効率性を高めなければならないと考えています。今、日本赤十字社では、これまで各血液センターで行ってきた輸血用血液の製造や検査の業務を、数ヶ所に集約・統合することにより製造効率を高めるなど、将来にわたって安定的な事業運営ができるよう常に事業の実施体制を検証し、具体的な改善を推し進めています。
また、献血された方の満足は、『職員のサービスがよかった』とか、『記念品をもらって嬉しい』とかというようなこともあるかもしれませんが、『自らの血液で人の命を救えることができた』『社会の一員として何かの役に立てた』という実感ではないかと思います。そういった意味で、皆さんからいただいた血液がどのようなかたちで患者さんに届けられているかということを伝えていくことも重要ですね。
私たち血液事業に携わる者は、まさしく血の通った質の高い事業を展開していかなければなりませんし、それこそが人道を理念に掲げる赤十字の仕事であると思います。これからも、献血される方から患者さんへのエールと患者さんから献血された方への感謝の気持ちを『見えない強い糸』で繋げていけるような仕事をしていきたいですね。」
補足
(注1)「抗原・抗体検査」は、ウイルスなどに感染した後、血液中に産生される抗原や抗体を検出する方法のため、感染していることを検査で検出できない期間(この期間のことを「ウインドウ・ピリオド」と言います)が生じてしまいます。
一方、「核酸増幅検査」は、抗原や抗体ではなく、ウイルスを構成する核酸(DNAまたはRNA)の一部を約1億倍に増幅してウイルスの有無を検出するため、非常に感度が高く、ウインドウ・ピリオドの短縮を可能にする検査で、日赤では平成11年から世界に先駆けて導入しています。
(注2)輸血用血液製剤中の白血球に起因する副作用・感染症等を減少させるため、輸血用血液製剤から白血球を除去したうえで、製品として供給しています。
(注3)輸血を受けた方のウイルス等の感染等を防ぐため、輸血用血液製剤に混入する病原体を薬剤や紫外線照射などで死滅させる仕組み(この仕組みのことを「不活化技術」と言います)の導入を検討しています。