3.11~あれから10年を生きて〈第2回・岩手〉

東日本大震災の発生から2021年3月で10年。 来年の3月号まで「3.11」から人生を変えた人々の物語を毎月連載します。

希望の犬 ~ひと目、あなたに会いたい

豪雨災害の被災地で行方不明者を探す佐々木さんとユキ(写真提供:佐々木光義さん)

【岩手県上閉伊郡大槌町 佐々木光義(ささきみつぎ)さんのお話】

 約100体× 6 つの安置所=おおよそ600体。私が故郷の岩手県大槌町にたどり着いた初日に対面した、ご遺体の数です。袋を開けて、お顔を見て、おやじ、お袋の顔の特徴と一致するか確認する。人間って不思議ですね。ああいう時、悲しみとかの感情が消えてしまうんです。それから約3 週間、毎日、各安置所を回って新しいご遺体を確認しつづけましたが、両親の遺体は見つかりませんでした。
 大槌町に入れたのは発災後1 週間ほどたってから。ニュースでは大槌の情報が流れなくて、たどり着いて初めて、現実に直面しました。町全体、生まれ育った実家も、跡形も無くなっていた。避難所へ行き、そこで兄と再会。兄の口から、両親はどの避難所にもいないし、消息が分からないと聞きました。家族同然にかわいがっていた飼い犬も行方不明になっていて…。うちのおやじは脳梗塞の後遺症で片足が不自由でした。近所の人の話では、皆が避難する中、おやじ一人を置いていけないとお袋も家に残ってしまった。ああ、二人とも助からなかった、と感じました…。
 発災から約1年後、勤めていた会社を辞め、神奈川県の葉山の家を引き払い、大槌に戻りました。生活が落ち着いたころ、ふと、犬が飼いたいなと。そして、犬を飼うなら災害救助犬に育てたい、と考えたのです。アメリカの9.11テロの時には、災害救助犬が生存者を探すのに大活躍したとのこと。私は葉山にいた時から赤十字救急法の指導員として講習に行ったり、防災ボランティアをしたり、人の役に立てることが好きだったので、人を救える犬を、という発想が、自然と湧きました。
 こうして、ゴールデンレトリバーの子犬「ユキ」が家族の一員になり、生後9 カ月から横浜の訓練所でトレーニングをスタート。ユキの訓練は1 年に及び、2 回目の挑戦で災害救助犬の試験に合格しました。
 
 2016年に岩手県で発生した豪雨災害の被災地で、ユキは行方不明者の捜索を行いました。川が氾濫し行方不明となった方が見つからないとのニュースを見て、警察に協力を申し出たのです。捜索に参加できたのは発災後3 週間過ぎ。行方不明者の生存は絶望的でした。災害救助犬が死後数週間がたったご遺体を探すことは「賭け」でした。それでも、もしかしたら…という思いがありました。被災地に着き、警察の捜索隊と話していると、「災害救助犬が来てくれた…ありがとう!」と涙ながらに話しかけてくる方が。行方不明者のご家族でした。災害救助犬に、こんなに感激されるなんて…。驚くと同時に、その気持ちを私は知っている、と感じました。
 探しても探しても見つからない家族。もう助からないのは分かっている。それでも、なんとか見つけ出してあげたい。ひと目、会いたい…。特別な訓練を積んだ災害救助犬なら、見つけてくれるかもしれない――災害救助犬は“ 希望”の存在なのだ――。

  残念ながら、その捜索では行方不明者を見つけられませんでした。しかし、これからも誰かの悲しみを救うために役立たせたいと、ユキの災害救助訓練を続けています。

この記事は赤十字NEWS 2020年5月号の掲載内容をオンライン用に編集したものです。
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