赤血球の血液型

ヒトの赤血球膜にはABO、Rh等400種余りの赤血球抗原が存在します。それぞれの抗原は、それと反応する特異的な抗体によって、凝集したり、溶血を起こすことがあります。

ABO血液型に対する抗体については、規則的に存在する抗A、抗B、抗A,Bがあります。一方、その他の血液型に対する抗体は、不規則抗体と呼ばれ、輸血や妊娠といった抗原刺激により産生される免疫抗体と、産生原因が不明な自然抗体の2つに大別されます。

輸血を行うにあたっては、ABO血液型・Rh(D)血液型の適合性のみならず、その他の血液型の不規則抗体の産生に注意を払う必要があります。不規則抗体が産生された場合、その抗体に対応する抗原が陰性の血液を輸血することを考慮しなくてはなりません。

ABO血液型

ABO血液型に属する抗原は、赤血球膜上だけでなく、多くのほかの体細胞や体液に存在し、Mendelの法則に従って遺伝します。ABO血液型の抗原性は糖鎖の構造によります。まずABOどれにも共通したH物質ができて、そこにA転移酵素、B転移酵素が作用するかしないかで血液型が決まります。

生後数カ月経つと、A型の場合にはB抗原に対する抗体を、B型の場合はA抗原に対する抗体を、O型の場合は両方に対する抗体を持つようになります。

そのため、ABO血液型は、赤血球上のAおよびB抗原の存在を確認するオモテ検査と、血清中の抗Aおよび抗Bの有無を確認するウラ検査で判定を行います。

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Rh血液型

Rh血液型は、ヒトの赤血球にアカゲザル(Rhesus Monkey)と共通の抗原があることから、その名がつけられました。48種類の異なった抗原により構成されており、そのうちの5つが特に重要で、DとCE、Ce、cE、ceの組み合わせがあります(dの遺伝子は見つかっていません)。

このRh因子の中で、最も強い抗原性を持つのがD抗原であり、D抗原が陰性である場合を「Rhマイナス」といいます。

ABO血液型と異なり、Rh抗原には規則抗体が形成されないため、輸血や妊娠をきっかけとして不規則抗体が産生されると、次の輸血や妊娠により副作用を引き起こすことがあるので注意が必要です。

MNS血液型

1927年、LandsteinerとLevineにより発見された血液型です。優劣のない対立遺伝子 MS、Ms、NS、Nsの支配を受け、9種類の表現型があります。

MNS型に対する抗体は通常規則抗体としては存在しません。時にN型の血清中に抗M、M型の血清中に抗Nが存在することがありますが、抗M、抗Nの多くは自然抗体であり、室温以下でよく反応します。抗S、抗sは一般的に免疫抗体で、輸血副作用の原因となることがあります。

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P関連血液型

1927年にLandsteinerとLevineが、ヒト血球を分類するための抗体を作成する目的で、ヒト血球をウサギに免疫した結果、ABO、MNSとは異なる新しい血液型を発見し、P血液型と名づけました。この新たに見出した抗体に凝集する血球をP+、凝集しない血球をP-としました。その後1951年にLevineらが、がん患者血清中にヒト血球と反応する抗体(抗PP1Pk(抗Tja))を見出しました。

P血液型に関連する抗体は、次のとおりです。

  1. 抗P1
    P2型のヒトが保有する血清中に認められる冷式自然抗体で、一般に輸血副作用や新生児溶血性疾患の原因となることはありません。
  2. 抗PP1Pk(抗Tja
    P型のヒト血清中に規則的に見られる抗体で、非常にまれなPk型とp型のヒトは、常に自然抗体として抗Pあるいは抗PP1Pk(抗Tja)を保有します。これらの抗体は、激しい溶血性輸血副作用や新生児溶血性疾患の原因となります。

Lewis血液型

Lewis抗原は元々赤血球産生時には赤血球上にはなく、血漿中に存在するLewis型物質を赤血球膜上に取り込む形で赤血球上に発現します。一般的なLewis血液型の表現型は、臍帯赤血球ではLe(a-b-)ですが、生後2~3年の間にLe(a+b-)に変化するもの、さらに、Le(a+b+)を経てLe(a-b+)に変化していくものがあります。成人でもごくまれにLe(a+b+)のこともあります。

Lewis血液型はABH型物質分泌型対立遺伝子Seおよびseと密接に関係しており、唾液中にABH型物質が認められる場合は分泌型でLe(a-b+)となり、型物質が認められないかごく少量の場合は非分泌型でLe(a+b-)となります。Le(a-b-)には分泌型と非分泌型の両方があります。

抗Lea、抗LebはIgM抗体で、その多くは低温で反応しますが、抗Leaは時に強い溶血性副作用を起こすことがあります。これらの抗体は胎盤通過性がないことから、新生児溶血性疾患の原因となることはありません。

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Kell血液型

1946年Coombsらによって発見された抗Kと、1949年Levineらにより発見された抗kによってKell血液型は3型に分類され、その後、同染色体上に位置すると考えられるKpaとJsa、およびその対立形質のKpbとJsbが報告されました。

抗Kは白人や黒人で臨床的に問題となることがありますが、日本人の場合ほとんどがK-k+のため、輸血副作用や新生児溶血性疾患の報告例は少ないです。

Duffy血液型

Duffy血液型には5つの抗原が報告されていますが、そのうちFyaとFybの2つの抗原が重要です。 抗Fyaと抗Fybはいずれも免疫抗体であり、輸血副作用の原因となります。抗Fyaは新生児溶血性疾患の原因となることが知られていますが、抗Fybでの報告はありません。

日本人ではFy(a-)の頻度が低く、まれな血液型として扱われています。 ある種のマラリア原虫は赤血球のDuffy抗原から侵入するため、Fy(a-b-)のヒトはこれらのマラリアに感染しないといわれています。

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Kidd血液型

Kidd血液型には2つの対立遺伝子JkaとJkbがあり、4つの遺伝子型に分類されます。このうちJk(a-b-)はまれにしか見られません。
抗Jka、抗JkbはIgG抗体で補体結合性があり、輸血や妊娠による赤血球の感作により産生されます。輸血副作用は遅発性で、抗体の力価が低くても溶血性の副作用を引き起こします。

Diego血液型

1955年にLayrisseらが新生児溶血性疾患の原因として抗Dia、1967年にThompsonらの発見した抗Dibによって3つの型に分類される血液型です。Dia抗原はネイティブアメリカンとモンゴロイドに特有の抗原といわれています。
抗Diaと抗Dibは輸血副作用および新生児溶血性疾患の原因となります。

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I血液型

I抗原は成人の赤血球上に大量に存在していますが、新生児にはほんの少ししか存在せず、これに対しi抗原は成人の赤血球にはわずかしか存在しませんが、新生児では大量に存在します。まれに成人でもI抗原が発現しない人(iadult)が見られます。抗I、抗iは次のような性質を持っています。

  1. 同種抗I
    i型(成人)のヒト血清中に認められる抗体で、先天性白内障を伴う人にまれに輸血され、輸血副作用の原因となります。IgM抗体で補体結合性があり、輸血は同型である必要があります。
  2. 自己免疫抗I
    寒冷凝集素病といわれる自己免疫性溶血性疾患患者の血清中に見出されています。
  3. 自己抗I
    多くの正常ヒト血清中に見出される寒冷凝集素であり、室温でもよく反応することから、血液型検査や交差適合試験に干渉し、ほかの血液型抗体がマスクされてしまうことがあるので注意が必要です。輸血副作用の原因とはなりません。
  4. 自己抗i
    伝染性単核球症の患者血清中にまれに検出され、臍帯血球(icord)や成人i型血球(iadult)と反応します。

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まれな血液型

まれな血液型とは、検出頻度が低く、ある抗原に対する抗体を産生すると、適合血を得ることが難しい血液型のことです。
非常にまれな血液型であるⅠ群と、まれではあるが比較的頻度の高いⅡ群に分類されます。

Ⅰ 群 Bombay、 para-Bombay、 D--、 Dc-、 Rhnull、 Rhmod、 LW(a-b-)、 Pk、 p、 S(-)s(-)U(-)、 Nsat/Nsat、 MiV/MiV、 Mk、 Fy(a-b-)、 Jk(a-b-)、 Kp(a+b-)、 K0、 Kp(a-b-)、 McLeod、 I(-)、 Lu(a-b-)、 Ge(-)、 Ok(a-)、 Lan(-)、 JHM(-)、 Gy(a-)、 Hy(-)、 En(a-)、 IFC(-)、 UMC(-)、 Er(a-)
Ⅱ 群 s(-)、 Fy(a-)、 Di(b-)、 Jr(a-)、 Do(a+b-)

「ISBTに掲載された血液型システム」についてはこちら

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