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命を救う“種”を砂漠に ~イラクで救急医療を指導~

09/12/04

小川里美看護師

 イラク戦争後も宗教対立などによる爆破テロ事件が続くイラク。この紛争の地にも日本赤十字社の看護師2人が派遣され、赤十字国際委員会(ICRC)の人道支援活動に従事しています。
 その1人、京都第二赤十字病院所属の小川里美看護師が先ごろ一時帰国。取り組みの現況を報告しました。

■ 戦争が招いた医療の崩壊
 いまイラクでは、テロ攻撃や爆破事件が人の集まる街中をターゲットに行われています。戦争にもルールがあるはずなのに、そんな常識は通用しません。女性も子どもも関係なく、無差別に市民が殺されています。
テロ掃討作戦が激しかったころに比べると半減しましたが、それでも毎月の死傷者は1,500人にも達しています。また、イラクでもう一つ恐いのが交通事故です。事実上交通ルールがない状態で、ひんぱんに重大事故が発生しているのです。
 ところが、爆破テロや交通事故での負傷者を救うための救急医療がイラクではほとんど機能していません。医師も看護師も救急現場での初期対応ができないのです。
 この背景にあるのが、イラン・イラク戦争から湾岸戦争、そしてイラク戦争と30年にも及ぶ戦争です。イラクはもともと教育水準が高く、医療レベルも決して低くありませんでした。しかし、戦乱や経済制裁の結果、医療技術・知識を最新のものに更新していく教育や研修が行われてこなかったのです。

真剣な受講者たち。医師、看護師が自由に意見を交わし学びます。中央が小川看護師。©日本赤十字社

■ 救急医療改善への熱い思い
 こうした事態にICRCは、救急医療を担う医師、看護師を育てる支援事業を行っています。今年5月からのパイロットプロジェクト(テスト)を経て、10月から2年間の予定でスタートさせました。ICRCのスタッフとして7月に赴任した私はいま、トレーニングマネジャーとして関わっています。
 拠点となるのは、比較的治安が安定しているイラク南部の町ナジャフと北部のスレイマニアの2カ所の救急病院。各地の病院から医師と看護師のチームを派遣してもらい、救急医療について3週間の集中トレーニングを行います。
 研修に参加している医者の多くは若いドクター。一方、看護師は若い世代に交じって40代、50代のベテランの方も参加しています。ほとんどが「学校を卒業してから初の研修が今回の赤十字研修」という方ばかりです。皆さんちょっとの間を惜しんでノートを取り、講義の後も質問をするなど、学ぶ姿勢は本当に真剣。これからのイラクの救急医療の水準を高め、一人でも多くの命を救うんだという思いが伝わってきます。


■ イラクの看護師から学んだ「人道」
 長年の戦禍でイラクの病院は悲惨な状態が続いていました。医療資材は不足し、給料もまともに支払われない。「生活ができない」と多くの医師・看護師が病院を去りました。いま、病院で働いているスタッフは、そんな状況下で医療を守った人たちです。
 これは勇気あるすごい行為です。私は生活の保障があって赤十字の活動に従事していますが、彼らは違う。なぜそんな頑張れたのかという質問に、ある看護師の方は「患者を見捨てるわけにはいかない」「私たちを頼ってくる人がいる」と答えてくれました。
 こうした彼らの行動こそが「人道」なんだと、私は心から感動しました。研修で教える立場の私たちですが、医療・看護の倫理や責任については彼らから多くを学んでいます。
 イラクはいまさまざまな問題を抱えています。ですから、彼らが研修で学んだ救急医療の知識や技術がすぐに各病院にフィードバックされて、全体の水準が劇的に変わることはないかもしれません。しかし、研修事業の成果は、必ず人から人へとつながっていくはずです。私たち赤十字はそれをサポートしたい。時間はかかっても必ずその成果は結実すると思っています。砂漠にまいた種にいつかは芽が出て、緑の大地に変わっていくことを信じています。

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