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パキスタン北部地震から3年~今なお続く復興への道のり~
08/10/07
2005年10月8日。約7万3,000人もの尊い命を奪ったパキスタン北部地震(マグニチュード7.6)の発生から3年が経過しようとしています。被災地では、徐々に学校などが再建され、新しくなった校舎に戻り始めた子どもたちの表情も喜びに満ちています。その一方で、最も大きな被害を受けたバラコート地域では今もなお、家屋を失った被災世帯への仮設住宅の建設支援が続いており、人々の生活再建への道のりの険しさを物語っています。
これまで日本赤十字社では、震災直後の緊急救援活動に続き、国際赤十字が実施している復興支援事業に対して約8億2,000万円を資金援助し、2006年から同事業の運営管理を担当する吉田祐子駐在員を派遣しています。
しかし、同国の政局は昨年から不安定さを増し、治安が悪化しています。9月20日にはイスラマバード市内のマリオット・ホテルにおいて大規模な爆弾テロ事件が発生。300人以上が死傷する惨事となりました。被災地の北西辺境州内でも断続的に自爆テロ等が発生しており、国際赤十字も支援活動を一時停止せざるを得なくなりましたが、何とか復興に向けての努力が続けられているという状況です。
■「自由に歩ける!新しい人生が始まる!」 ~ムザファラバード義肢センター
日本赤十字社が1億円を拠出し、2007年10月、国際赤十字が建設したアザド・ジャンム・カシミール州のムザファラバード義肢センターは、地震被災者、交通事故や地雷の被害などに遭った人々によって活用されています。
ここは、義肢の提供、治療などを含めたすべての支援が無償です。義肢装着後の訓練や生活支援も充実しており、利用者には食事や交通費も支給されます。宿泊施設も整備されていることから、他州など遠方からも利用者が訪れています。
(写真:ムザファラバード義肢センターで歩行訓練をするイージャズ・フセインさん。©ICRC)
インドの管理下にあるカシミール州出身で、この地震で右足を失ってしまったムハマド・スルタンさんは、「センターでの治療を受けて私の人生は変わりました。小規模生活支援事業(Micro Economic Initiative: MEI)で職業訓練を受け、電気工事の仕事で家族を養えるようになりました。今では、洋服を着ていれば、誰も私が義足を付けていることに気づかないほどです」と語ってくれました。
こうして利用者が自立し、生活の再建に向けて懸命に努力している姿は、センターで働く現地職員自身のやりがいとなり、より充実した支援活動につながっています。
なお、このセンターは将来、パキスタン政府に引き渡される予定です。
■被災者自身で立ち上がる!生活再建に向けた取り組み
吉田駐在員が担当している生活再建事業では現在、1)基礎裁縫技術訓練、2)小規模生活基盤再建(歩道、灌漑施設などの整備)、3)農業支援、4)地域共同体の組織強化の活動に取り組んでいます。
(写真:娘のために洋服を縫う女性。北西辺境州バラコート郡ハデイ村にて。©日本赤十字社)
(写真:建設中の歩道。傾斜にあわせて階段状になっている。この歩道で地域内の集落が繋がる。©パキスタン赤新月社)
農業支援事業では、園芸と農業一般を教える指導員の研修を実施。1人が100世帯を担当できるよう、各支援対象地域の規模に合わせて指導員候補を選び、農業局指導員による5日間の基礎研修、農業試験場訪問と3ヶ月ごとのフォローアップ研修を行います。
園芸農家指導員研修に参加したムハマド・ハルーンさんは「長い間農業に従事してきましたが、初めて研修を受けました。すべての授業が有益でした。今回得た知識を地域の農家たちにも伝えていきたいです」と意欲的です。
(写真:園芸農家指導員研修で水タンクを受け取るムハマド・ハルーンさん。©日本赤十字社)
同じく参加者のヤシール・レーマン・カーンさんも「私の地域では、多くの人々が果物などを栽培していますが、苗木の質が悪いことから、これまで市場での評判はあまり良くありませんでした。せっかく育てた果物も、品質が悪ければ、人々は働く意欲を失ってしまいます。果樹栽培には人々の生計を向上させる大きな可能性があるのです」と今後への課題を語ります。
(写真:園芸農家指導員研修に参加したヤシール・レーマン・カーンさん(右)。中央は吉田駐在員。)
年度末までに、19人の農家指導員と14人の園芸農家指導員を育成する予定です。
今後は、事業スタッフが対象地域を訪れる際に、農業指導員の活動状況を確認しながら、研修後のサポートも行っていきます。
さらに、生活再建事業の活動地域では、新たに安全な飲料水のニーズがあることが判明しました。そのため、同じく国際赤十字で実施している給水・衛生事業チームと連携して調査を行い、どのような対応方法があるのかを協議する予定です。
■“ Building back better ”~多発する災害や治安悪化の中で~
国際赤十字では、本事業の完了目標時期を2009年12月としています。しかしながら、これまでも治安悪化による活動停止措置、洪水など多発する災害への対応により、事業全体に遅延が発生し、さまざまな困難に直面しています。
特に学校・医療施設の再建事業においては、もともと被災地が山間部でアクセスが難しく、さらに再建予定の事業数に対して現地の建設業者の数も限られているため、全体として大幅に遅延しているのが現実です。
本年8月時点のパキスタン地震復興庁(Earthquake Reconstruction and Rehabilitation Authority: ERRA)の発表によれば、4,052にのぼる再建予定の教育施設のうち、これまでに完成したのは175施設にとどまっており、まだ多くの子どもたちがテント等での勉強を強いられています。
この状況は保健分野においても同様であり、307の医療施設の再建予定に対して完成したのは38施設。こうした現実と実際の被災者のニーズにおける乖離を埋めるべく、被災各地で仮設診療所が運営されているほか、国際赤十字の保健事業においても巡回診療活動(Mobile Health Unit: MHU)を延長しています。
吉田駐在員は2006年12月から約2年間にわたり、被災地の一つである北西辺境州のマンセラに駐在してきました。現在の様子と今後の課題についてこう話します。
「震災より3年が過ぎた被災地は、刈り取りを待つ穀物が実り、日々穏やかに過ぎているように見えます。復興は息の長い仕事ですが、他団体と同様、国際赤十字もパキスタン政府が主導すべき復興支援を肩代わりすることはできません。成果の継続および、災害に負けないコミュニティー作り、そのための人材育成や資金調達等、復興支援を終えるにあたって課題は沢山です。
赤十字の長所は、国際赤十字が支援活動を定着させた後、各国にその成果の一部を引き継げる赤十字社・赤新月社があり、他国の赤十字社・赤新月社による二国間での継続支援があることです。国際赤十字からパキスタン赤新月社へ繋げていく計画作りが始まる一方、被災地域での活動は続きます」