カンボジア救急法普及支援事業 (山梨県:野沢 健夫)

日本赤十字社(以下、日赤)はアジア・大洋州地域の姉妹赤十字・赤新月社が実施する救急法等の普及支援事業の一環として、カンボジア赤十字社(以下、カンボジア赤)を2008年から支援しています。
 同国北西部の都市バッタンバンで2016年、カンボジア赤の救急法指導者の技術、知識の向上のためリフレッシャートレーニングが10月11日から3日間にわたり開催され、カンボジア赤本社および25支部の指導員31人が参加しました。
 今回、同研修にアドバイザーとして参加するため、日赤山梨県支部からボランティアとして派遣された野沢健夫(のざわたけお)救急法指導員にインタビューしました。山梨県支部からは、昨年度も、有坂泰志指導員が派遣されています。

自己紹介

私は現在フリーランスで、主に青少年の健全な育成を目指して、野外体験活動の指導や、環境教育に携わっています。野外活動を指導するうえで救急法は必須であり、そのスキルを維持する為にも、2003年度からボランティアの赤十字救急法指導員として、県内各地で行われる講習会などのお手伝いをしています。そんな仕事柄、学校で児童・生徒が学ぶ講習会には、率先して指導に行かせていただいています。

この派遣にあたって

フリーランスで仕事をしている私にとって、派遣日程を確保することは、正直、不安でしかありませんでした。しかし、こんなチャンスは、なかなか巡って来るものではありません。特に家族の同意なしには考えられませんでしたが、妻も快く背中を押してくれました。また、同じ指導員の仲間も、「絶対に行った方が良いよ」と、背中を押してくれたのです。

カンボジアの事故の現状について

シェリムアップへの移動の最中で立ち寄ったコンポントム州の赤十字リーダーの方から、直近の2週間で9名もの方が亡くなったことを聞きました。そのうち8名が溺水によるもので、もう1名は落雷による感電死だったそうです。実際、投網や船で網を仕掛けて魚を採る住民をたくさん見ましたが、誰一人としてライフジャケットは着用していませんでした。泳げない方も多いのに、安全より、作業効率が優先されていることや、そもそも、水辺の危険性や、落雷の危険性についての知識が、圧倒的に足りていない事実があります。交通事故による死亡者も多く、特に子どもや若い世代の犠牲者が多いことが、この国の哀しい現実でした。だからこそカンボジアでは、一般市民が救急法を学び、事故への対処ではなく、事故防止に努める機運の盛り上がりこそが重要なのだと、強く感じました。

現地で感じたこと・学んだことについて

今回の派遣における私たちのミッションは、バッタンバンで行われた指導員のリフレッシャー・トレーニングで、カンボジア各地で救急法を指導しているインストラクターの方々に、新しいガイドライン(蘇生ガイドライン2015)に基づく心肺蘇生とAED(自動体外式除細動器)の使い方を伝えることと、ファーストエイド全般の指導方法や、新しい知識などについて、助言するというものでした。前回のレポートで伴指導員も伝えてくれているとおり、技術レベルが相当高い方も多く、とても熱心で、学ぶこ

とに貪欲でした。私たちがデモンストレーションを行うと、日本では見逃されてしまう様な細かい動作まで、しっかりと見て下さっていて驚きました。その動作を行う理由や、ちょっとした手の位置、角度まで、具体的にたずねられました。一つのデモンストレーションに、あんなに良い緊張感を持ったのも久しぶりで、改めて、救急法を伝える初心を思い出させてくれ、私自身も大きな刺激を受け、大変勉強になりました。
 カンボジアの方々は、想像していた以上に、とにかく笑顔が輝いていて、礼儀正しいことが印象に残っています。トレーニングのあい間のコーヒーブレイクでは、笑顔で情報交換をする姿がとても嬉しそうでした。住民の方も総じて温和で、子どもたちの笑顔ときたら、とびっきりで、本当に感動ものでした。カンボジア赤の活動が、救急法の普及を通して未来に向けて地域に根付き、大きな花となって開いて欲しいと心から感じました。

今後に期待すること

カンボジア赤の目標は、「2020年までに、救急法のトレーニングを受けた人が各家庭に少なくとも1人いるようにする」というものです。その達成には、まだ時間を要するでしょう。一方で、あの高い指導員の方々の熱意を思えば、絶対に成し遂げると思います。

 その一つの糸口になるかは未知数ですが、やはり、子どもたちへの正しい「安全教育」こそ、目標を成し遂げる近道ではないかと感じました。子どもは大人を見て学びます。大人が正しい知識を伝えてなければ、根本の解決には近付きません。逆に、子どもたちが彼らの親に安全についての正しい知識や、自己防衛の技術を伝えれば、親は納得してくれるでしょう。子どもの学びの吸収度はスポンジの様で、ぐんぐんと吸収し、そのスピードもどんどん加速しますから、是非とも検討していただきたいと思い、提案もさせていただきました。指導員も、教材ももっと増やす必要がありますが、どんなにアナログな機材であっても、知恵と工夫で改善していって欲しいとも思いました。彼らなら絶対にできるはず。全ての国民に救急法を正しく伝えてくれることでしょう。

社員・寄付者のみなさまに伝えたいこと

派遣の最後に私たちは、プノンペンのカンボジア赤本社を表敬訪問させていただきました。そこで、ポンチャンティー事務総長様から、「私たちは、日赤のことを、お兄さん、お姉さんだと思っている…」と、温かく優しいお言葉を賜りました。日赤の長年にわたるカンボジア赤への支援が、救急法の普及という形で、着実に結果を残し、カンボジア国民の生活向上に大きく貢献していることを実感し、そのことについて、カンボジアの国民の方々からも、日赤が感謝と尊敬の対象

である事も体感しました。このような国を超えた人道支援を続けられるのは、多くの方たちが日赤の活動を理解していただき、社費や寄付金という形で心を寄せてくださっているからに相違ありません。
 今回、私たちは、日本全国の社員の方々を代表して、カンボジア赤からの歓迎を賜りましたが、これは、私個人の喜びではなく、社員の方々全ての喜びとして感じていました。日赤は皆様から賜った善意のお気持ちを、多くの「苦しんでいる人」に、全て届けていることを信じて下さい。そして、国境を越えて世界各国で連携し合って援助し続ける、「単一」の団体であることも知っていただきたいと思います。
 赤十字の全ての活動は、全て皆様からの善意で賄われています。引き続き、皆様の善意を、赤十字に寄せていただければ有り難いです。