ショートショートフィルムフェスティバル2020

今年は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、世界110以上の国と地域から集まった約5000作品の中から厳選された約200作品が無料でオンライン上映されています(一部有料イベントもあり)。赤十字も特設プログラムとして「戦争と生きる力 supported by 赤十字」をテーマにした12作品を上映中。今回の赤十字国際ニュースでは一部作品の紹介と本プログラムの魅力についてご紹介します。

「余白」を想像する ― 「ショートショート」の魅力

今回のプログラムの横断テーマは「戦争と生きる力」。そう聞くと厳しい戦禍の中でも懸命に生きようとする力を描いたラインナップですか?と想像する方もいるかもしれませんが、戦争の現実は決してそう簡単に美化できるものではありません。まずは先入観を抜きにして向き合ってみることをお勧めします。以下3作品をご紹介します。

「ホーム」(9分40秒/シリア/ドラマ/2019)

ホーム

シリア内戦下の紛争地で不発弾などの鉄くずを物々交換して生活の糧を得る少女の日々を描いた「ホーム」。主人公は8歳の少女サラで、この作品が作成されたのは2019年。シリア紛争が始まったのは2011年ですので、サラはほぼ紛争という現実の中に生を受け、日常を送ってきたことになります。

本作品の解説には「手榴弾と手袋との交換が劇的な状況を生むことに」とありますが、10分ほどの映画では圧倒的な破壊行為の爪痕が残された街―サラにとっての「ホーム」―を歩くサラがどんな結末を迎えるのか、シリア紛争への理解を抜きにして、その世界観に一気にのめりこまれます。なお、東日本大震災の発生も2011年ですが、シリア紛争は今もなお予断を許さない状況が続いています。

「ウタスズメ」(11分43秒/デンマーク/アニメ/2019)

ウタスズメ

国境を超えるために冷凍車の冷凍庫に密集して乗り込む移民の人々。冒頭は新天地に向かう希望に満ちたシーンで始まりますが、徐々に寒さに耐えきれず、絶望的な状況に...鼻歌交じりで運転するドライバーの明るさとのコントラストが印象的です。特定の国を描いたものではなく、かつ人形劇という手法で描かれているので、紛争地の厳しい現実と遠く離れた国で過ごす私たちの間にあるような「想像力の壁」を想起させるものがあります。

なお、世界的な気候変動の影響により今後30年間で10億人以上の人が今の居住地に住めなくなるとする研究もありますが、本作品はマスの数字では想像できない移民・難民問題の厳しい現実のイメージを強く駆り立てます。

出典:CNN「気候危機の脅威、2050年までに12億人が移住余儀なくされる事態に」(2020年9月11日)
https://www.cnn.co.jp/world/35159462.html

「HOPE」(1分49秒/ICRC/2018)

HOPE

副題は「Why we can't save her life - 希望:彼女の命を救えなかった理由」ここで解説の言葉を費やすより、実際にご覧いただく方が早いかもしれません。題名とは裏腹に、希望が断たれる結末で幕を閉じるショッキングな作品です。

ところでこの作品自体は2018年に「Health Care in Danger ― 紛争下の医療の危機」として赤十字が始めたキャンペーンの一環として作成されました。国際人道法で保護されるはずの病院や赤十字などの人道支援従事者が故意に攻撃の対象とされる事例が頻発しており、そうした事態へ警鐘を鳴らしている作品です。

モヤモヤ感を残し続けてほしい

「ショートショート」という余白の部分が多い作品だからこそ、イメージを喚起する力に優れているのが本プログラムの何よりの魅力。そしてどの作品にも共通するのが、人間ならだれもが感じる苦しみや痛み、悲しみと言った「感情」とそれへの「共感」。懸命に生きる力が素晴らしい、といった安易な受け止めではなく、心に残るモヤモヤ感をそのまま受け止めていただき、背景にある問題への関心をぜひとも持ち続けていただければ嬉しく思います。

「住んでいる場所が違うだけ、生まれてきた国が違うだけで、生きるための営みは何も変わりません。作品に登場するさまざまな境遇の人たちの人生や想いに触れることで、 身近な人を思いやり、助け合うことの大切さを感じてもらいたい」

(―「戦争と生きる力」案内文より)

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ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2020

9月16日(水)~9月27日(日)

オンラインで開催中!全プログラム視聴料無料

https://www.shortshorts.org/2020/ja/program/wp-1.php