100年の時を経た今も... 世界に届く「昭憲皇太后基金」

新型コロナウイルスの感染拡大においては、日本赤十字社も含め、それぞれの国や地域で各赤十字・赤新月社も全力でその対応にあたっています。その一方で、感染症の拡大以前から世界各地で実施される赤十字の人道支援も切れ目なく継続すること、そして、いざという時に備えるためにも、普段の地道な取り組みを通じてコミュニティの力を高めておくことが大切です。今回ご紹介する「昭憲皇太后基金」は100年近く前から、保健衛生の改善や災害への備えといった活動を支援してきました。

"平時に備える"を支援し続けてきた「昭憲皇太后基金」

昭憲皇太后

昭憲皇太后
(出典「日本から世界へ 思いやりの100年」)

「昭憲皇太后基金」は1912年(明治45年)にワシントンで第9回赤十字国際会議が開催された際、赤十字の平時の活動を奨励するために昭憲皇太后(明治天皇の皇后)が国際赤十字にご寄付された10万円(現在の価値で3億5千万円に相当)を基に創設されました。
 "平時に備える"という発想がまだ広く普及していなかった明治時代、世界中で赤十字が実施する開発協力活動に焦点をあてた基金は、大正10年の第1回から今回(第99回)までで、累計約16億2,840万円、配分先は170の国と地域に配分しました。
 世界で武力衝突が起こり、のちに第一次世界大戦が起こるこの時代において、多くの赤十字社は戦時救護の対応に追われていました。そんな中、保健衛生の改善や、地震、台風、火災、噴火等の災害への備えといった平時の活動を行うための国際基金の創設は、画期的なことであったと言われています。
 同基金は、皇室をはじめとする日本からの寄付金によって成り立っています。国際赤十字の中に設けられた合同管理委員会によって運営され、原資を取り崩すことなく、そこから得られる利子が世界の赤十字社の活動に配分されます。毎年、昭憲皇太后のご命日にあたる4月11日に配分されています。

2020年の配分先が決定 -14カ国の活動に総額約4,440万円-

合同管理委員会は、事業目的の妥当性、ニーズ、事業のインパクト、過去の支援実績、地域バランス等を考慮した結果、今年度の基金の配分先を以下の14カ国での活動に決定しました。総額は約4,440万円(40万160スイスフラン)です。
 ※全て令和2年4月6日レート(1スイスフラン=110.98円)により換算。

◆◇◆◇ 第99回 昭憲皇太后基金支援事業の概要 ◆◇◆◇

1. ナミビア赤十字社(アフリカ):約321万円(28,940スイスフラン)
   学校における救急法の普及
   国内の学校10校において救急法の講習を実施します。

2. シエラレオネ赤十字社(アフリカ):約269万円(24,226スイスフラン)
   献血と緊急時の産科ケアへの取り組み
   特に妊婦や乳児が安全な血液製剤を利用できるよう目指します。

3. ウガンダ赤十字社(アフリカ):約333万円(30,000スイスフラン)
   オンラインでの献血者募集
   オンラインを活用し、献血者の募集に取り組みます。

4. アルゼンチン赤十字社(南アメリカ):約252万円(22,694スイスフラン)
   オンラインを活用した赤十字社における幹部職員の養成
   オンライン上での対話や議論が可能なコースを作成し、各地域における赤十字社支部の幹部職員を養成します。

5. パナマ赤十字社(南アメリカ):約365万円(32,882スイスフラン)
   平和教育と環境教育の推進
   開発戦略の一環として、社会課題や環境問題に対応するため、平和教育と環境教育を推進します。

6. トリニダード・トバゴ赤十字社(南アメリカ):約332万円(29,900スイスフラン)
   バーチャルリアリティを活用した防災事業
   バーチャルリアリティの技術を活用して、地震やハリケーンに対する社会の防災意識を高めます。

7. 東ティモール赤十字社(アジア大洋州):約331万円(29,799スイスフラン)
   性と生殖に関する健康についての若年層の知識向上
   性と生殖に関する健康について若年層への教育キャンペーンを実施し、社会の理解向上を図ります。

8. トンガ赤十字社(アジア大洋州):約378万円(34,100スイスフラン)
   障がいのある子どもたちへの支援
   障がい者センターのバリアフリーを進め、子どもたちが安全に移動できるよう支援します。

9. ブルガリア赤十字社(ヨーロッパ):約311万円(28,000スイスフラン)
   オンラインを活用した救急法の普及
   オンライン上で救急法を学べるツールを作成し、普及します。

10. ギリシャ赤十字社(ヨーロッパ):約314万円(28,250スイスフラン)
   防災事業への取り組み
   国内の赤十字の支部や地域コミュニティを中心に災害対応チームを結成します。

11. リトアニア赤十字社(ヨーロッパ):約275万円(24,810スイスフラン)
   救急法の普及
   救急法の講習受講者に対して、家族や友人、職場への更なる普及への協力を呼びかけます。

12. モンテネグロ赤十字社(ヨーロッパ):約313万円(28,188スイスフラン)
   ボランティア活動の強化
   若手ボランティアのリーダーを通して、ボランティア活動に対する意識の向上と活動への参加の促進を図ります。

13. イラク赤新月社(中東・北アフリカ):約315万円(28,371スイスフラン)
   乳がんに関する意識の向上
   女性ボランティアを養成し、乳がんの発生率を抑えたり早期発見したりするための情報を発信し、意識啓発を促します。

14. パレスチナ赤新月社(中東・北アフリカ):約333万円(30,000スイスフラン)
   赤新月社の組織体制の強化
   同社の職員やボランティアの研修の拠点となるIT研究室を設置します。

2018年 昭憲皇太后基金 支援事業の様子

ルーマニア赤十字社

< 貧困地域におけるコミュニティ支援
(ルーマニア赤十字社、2018年)

ベラルーシ赤十字社

< 救急法の普及
(ベラルーシ赤十字社、2018年)

◆ コラム:新型コロナウイルスの「負のスパイラル」を断つために

現在、感染の拡大が続いている新型コロナウイルスによる感染症は、"3つの顔"を持っており、これらが"負のスパイラル"としてつながることで、更なる感染の拡大につながっています。
 この度、日本赤十字社ではこの"負のスパイラル"を知り、断ち切るためのガイドとして「新型コロナウイルスの3つの顔を知ろう!~負のスパイラルを断ち切るために~」を作成しました。感染拡大を防ぐための一助として是非お役立てください。

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