ヨルダン: 長期化するシリア危機、いつか国に帰り平穏な暮らしを取り戻すまで

2011年にシリア国内での内戦が本格化してから6年以上が経過しました。戦火から逃れるためこれまでに650 万人が国内避難民となり、520 万人がシリア国外へ、主にトルコ、レバノン、ヨルダン、イラク、エジプトへ避難しています(2017年9月現在、国連調べ)。これらの難民に対しては、難民受け入れ各国政府と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が中心となり、その他の国連機関やNGOなどとともに支援を続けていますが、危機が長期化して資金集めが困難になってきたことから多くの団体が撤退を余儀なくされ、難民の暮らしは益々厳しくなっています。

現在、日本赤十字社(以下、日赤)から国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)へ出向し、ヨルダンで「地域住民参加型保健事業」にたずさわる平田こずえ看護師(和歌山医療センター)がヨルダンに避難するシリア難民および現地活動の様子を報告します。

赤十字の活動「地域住民参加型保健事業(CBHFA)」

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ヨルダン赤ボランティアの啓発活動の様子©ヨルダン赤新月社

現在、私が派遣されているヨルダンに避難しているシリア難民は、約65万人で、ヨルダンの人口の約7%を占めています。また、およそ80%の人が知り合いを頼るなどして難民キャンプの外で暮らしており、長期化する避難生活の中で確かな収入もないまま、持ってきた家財道具を売り払ったり、子どもを学校へ行かせず働かせたりして生活をしています。元々パレスチナやイラクなどからの難民が多くいるヨルダンの人々は、難民の受け入れに寛容です。しかし、あまりの数の多さに対応しきれず、初めは無料で受けられていた医療サービスも打ち切られてしまいました。そこで連盟は、2014年からヨルダン赤新月社(以下、ヨルダン赤)とともに、シリア難民だけでなくその流入により影響を受け貧困などで社会的に弱い立場にあるヨルダン国民に対しても健康状態の改善と疾病予防について広く啓発活動を行う地域住民参加型保健(CBHFA)事業を実施しています。今年は、ヨルダン北部のシリア難民が多く住む6行政区で活動を展開し、110人の地域保健ボランティアが、家庭訪問や学校などでのキャンペーンを通じて延べ2万7千人以上の人々に健康教育活動を行いました(2017年10月現在、ヨルダン赤調べ)。教育内容は生活習慣病やその他感染症の予防、救急法、妊産婦及び乳幼児のケア、女性や子どもの保護についてなど、多岐に渡ります。

シリア難民が直面する健康問題

人道支援を必要とする地域と聞くと、貧しくて食事も取れず栄養不良状態にあり、教育も満足に受けられない人々がいるような地域を想像しがちですが、実際は日本と同じように生活習慣病が大きな問題となっています。イスラム教が主流であることから飲酒の習慣はほとんどありませんが、喫煙率が高いことと栄養の偏った食習慣のため、特に糖尿病や心臓血管疾患にかかる率が高くなっています。夜はシシャと呼ばれる水タバコをたしなむ人々を多く見かけます。水タバコは紙タバコよりも肺がんにかかる危険性が高いと言われますが、社交場での付き合いということもあり禁煙を勧めるのはなかなか難しい状況です。それでもボランティアたちは根気よく健康を促す啓発活動を続けています。

継続した支援の必要性

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子どもたちに啓発教材を手渡す2人の日赤職員(右側:筆者)©ヨルダン赤新月社

先日ボランティアとともにシリア難民の方の家庭を訪問し、話を伺うことができました。ある女性は夫が行方不明となり、また12人いた子どものうち7人はシリア等で亡くなり、現在はお年寄りと子ども5人とで生活しています。家族でシリアからヨルダンに避難してきてすぐ難民キャンプに入りましたが、環境になじめず首都の古いアパートの一室に移りました。以前は、他団体の支援を受けていましたが、その支援が打ち切られて収入は全くなくなり、子どもを学校へ行かせることもできず、また病気の子どもやお年寄りに治療を受けさせることもできず、自身も目の前で人が殺された時の記憶に悩まされていると打ち明けてくれました。シリアで母親を亡くしたという別の男性は、収入がないため持病があっても病院へ行くことができず、また壊れた窓を修理することもできず3ヵ月電気のないまま生活しており、冬になって寒くなったらどうすればよいのかと涙を流しながら話していました。実際に難民の方にお会いしてつらい経験や厳しい現状について伺い、継続した支援の必要性をより強く感じました。

ニュースでうかがい知る限り、シリア国内の一部地域ではある程度落ち着きを取り戻しつつあり、難民の中にはすでにシリアに戻った人たちもいるようですが、状況は一進一退で元通りの平穏さを取り戻すにはまだまだ時間がかかります。またシリアに戻っても、壊滅的に破壊されたところで一から生活を立て直すのは困難を極めることでしょう。それでもほとんどのシリア難民たちは国に帰ることを望んでいます。彼らが安定した生活を取り戻すまで、継続した支援が必要となることは間違いありません。これからもボランティアたちとともに支援を続けていきたいと思います。

中東人道危機救援金を受け付けています

ヨルダンは長引く中東危機の中、周辺国から大量の難民を受け入れ、社会全体でこの人道危機に立ち向かっています。そして、終わりが見えない中、息の長い支援を必要としています。皆様からのご支援に感謝を申し上げるとともに、いつの日か難民の方々が身体的にも精神的にも元気な状態で故郷の地を再び踏むことができるよう、赤十字の活動にさらなるご理解・ご支援をお願いいたします。

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