村に活力を与える"モバイルシネマ"

モバイルシネマに集まる住民たち

モバイルシネマに集まる住民たち

2017年1月のある日の夕方、ルワンダ東部のカヨンザ郡ニャミラマ村の広場から音楽が聞こえてきました。子どもから大人まで、住民たちは吸い寄せられるように音楽の聞こえる方へ歩いていきます。しばらくして、村の住民およそ160人が広場に集まりました。こんな静かな村でいったい何が始まるのでしょうか?
 そう、今日は月に1度の映画上映日。ニャミラマ村では毎月1回、夕方薄暗くなったころにアニメ映画が上映されます。どのような映画かというと、どうしたら災害から身を守ることができるのか、病気を防ぐためにはどのような栄養を摂ったらよいのかといった人々の生活に密接に関係する映画です。

司会のルワンダ赤十字職員ロバートさんがマイクを持って住民に話しかける様子

司会のルワンダ赤十字職員ロバートさんがマイクを持って住民に話しかける様子

実はこの映画、ルワンダ赤十字社が実施する啓発活動の一環なのです。人々が健康で安全な生活を送ることができるよう、そのために必要な知識や情報を普及しています。ルワンダ赤十字社の職員とボランティアがプロジェクターとスクリーンを運びながら村々を順番に回って上映するため、"モバイルシネマ"(移動式映画館)"と呼ばれています。日本赤十字社は2015年から国際赤十字・赤新月社連盟を通じてルワンダ赤十字社の活動を支援しています。2016年度には、7つの郡で映画が上映されました。

防災のアニメ映画を熱心に観ている子どもたち

防災のアニメ映画を熱心に観ている子どもたち

モバイルシネマでは、まずリズミカルな音楽と動画を流し、住民たちの気持ちを盛り上げます。それから、司会を務めるルワンダ赤十字社職員が、マイクを使ってその日のテーマに関するクイズを出します。最初は多くの住民が難しくて正解できません。しかしその後、映画を通じて学び、またクイズを出してみると、正解率は抜群に上がります。また、映画を上映するだけでなく、蚊帳の使い方について実際にデモンストレーションを取り入れるなど、住民たちが楽しく学べるように工夫しています。

インタビューをするルワンダ赤十字社職員アレンさんと一生懸命に答えるシルビアさん

インタビューをするルワンダ赤十字社職員アレンさんと一生懸命に答えるシルビアさん

ルワンダ南西部のフイエ郡カマラ村で防災の映画を見たシルビアさん(24歳)は、家の周囲に土嚢を置いたり木を植えることで、土砂崩れを防ぐことを学びました。ルワンダの地形はほとんどが傾斜面のため、大雨による土砂崩れで家が流される被害が起こりやすいのです。「トイレが壊れて汚物が流れると感染症の原因になることも知り、トイレの修復も行いました。」と語ってくれました。

モバイルシネマ会場の様子

モバイルシネマ会場の様子

「健康教育」や「啓発活動」と聞くと、抵抗を感じる大人や難しいと感じる子どもも少なくないかもしれません。しかし、アニメ映画を通じたメッセージによって、大人も子どもも楽しく学ぶことができます。ルワンダの小さな村は電気の供給も不十分で、テレビやパソコンを持っている家庭はほとんどありません。"モバイルシネマ"は健康な生活を送るための知識を普及するだけでなく、村の住民たちに活力を与えています。

ラジオで住民たちに呼びかけます!

ラジオ放送の様子

ラジオ放送の様子

ルワンダ赤十字社は、モバイルシネマ以外にも月に1回ラジオ放送を利用して、防災、感染症予防、栄養に関する啓発を行っています。ラジオ放送は、赤十字職員と赤十字ボランティア、そして専門家が対話形式で行います。またリスナーと電話による質疑応答を取り入れて、双方向の対話も行っています。テレビの普及率の低い地域では、ラジオが人々の娯楽の一つです。その娯楽を利用して、住民たちに働きかけています。

健康で安全な生活を送るための意識改革と行動変容

災害や疾病から命を守るには、「自らの命と健康は自分で守る」という意識を一人ひとりが持つことが何より大切です。しかし人々の意識を変えることは容易なことではありません。ルワンダ赤十字社のモバイルシネマは、住民を惹きつけ、まずは耳を傾けてもらえるよう、趣向を凝らした取り組みの一つです。「事前の備え・予防」の大切さを広め、行動変容を促すために、赤十字はこれからも一人でも多くの人に働きかけていきます。

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