巡回診療を支えるケニア赤十字社職員の想い

誰もが公平に保健サービスを受けられることは、災害や危機によって絶えず変化する環境に対応し、それに立ち向かう力を養うことに繋がります。しかしながら、ケニア共和国では経済発展の一方で、都市と地方、富裕層と貧困層の格差が広がり、最低限の保健サービスを受けられない人々がいます。

エスコット村まで

エスコット村まで、舗装されていない道路を50km走ります

ケニア共和国イシオロ州ガルバチューラ県のガルバチューラ地区とセリチョー地区には近隣に医療施設のない村が7つ(コクラ、エスコット、ビリキ、モゴレ、ベルゲシュ、コンボラ、タナ)あります。ケニア地域保健強化事業(Integrated Outreach Health Project:IHOP(愛ホップ))では、この7つの村を対象に巡回診療を実施しています。今ではこの結果、この2つの地区のすべての住民が保健サービスを受けられるようになりました。この巡回診療を継続できるのも、乾燥と猛暑という厳しい環境の中で、熱い思いをもって事業に携わるケニア赤十字社(以下、「ケニア赤」)ガルバチューラ事務所職員や医療職、ボランティアの人々のおかげです。今回は、巡回診療を管理・運営するケニア赤ガルバチューラ事務所職員をご紹介します。

赤十字の活動に誇りを持って

シアード・グヨ職員

笑顔が素敵なシアード・グヨ職員

ケニア赤ガルバチューラ事務所でプログラムオフィサーのシアード・グヨさん(32歳)は、事業の支援対象である地元セリチョー地区イレサボル村の出身です。以前は県立病院の検査技師として、この事業の巡回診療の医療職チームに所属していました。「災害があると真っ先に駆けつけ、脆弱な地域の住民にいつも寄り添う赤十字の存在は、子どものころからの憧れでした。巡回診療に参加しながら、いつかケニア赤のベストを着て、事業の指揮を執ってみたい」と周りに話していたそうです。

その後、公衆衛生学の勉強を始め、保健医療行政にも携わり、2015年9月にケニア赤に就職し、ついに2016年5月からこの事業の指揮を執ることになりました。「事業が始まってから、住民の健康に対する考え方や行動が明らかに変わってきました。巡回診療や緊急時の患者搬送などを通じて、救われた命の数は計り知れません。これからも自分を育んでくれた故郷に恩返しをしたいと思っています」と、シアードさんは笑顔で語ります。

自分の経験を地元に還元したい

アダン・デンゲ職員

熱心に事業関係者と協議するアダン・デンゲ職員

ケニア赤ガルバチューラ事務所でアシスタントプログラムオフィサーとして勤務するのはアダン・デンゲさん(57歳)。「人は一人では生きられない、周りの人のおかげで生きている、だから自分の経験を地元の住民に還元したい」との思いから赤十字ボランティアを志願したのが、この事業に携わるきっかけでした。

デンゲさんの夢は、この地域に蔓延する文化的な弊害をなくし、住民が健康な生活を送れるようにすることです。日本では、病気になると、薬を飲んだり、病院に行くというのはごく自然なことかもしれません。しかし、ケニアの農村部では、経済的な理由だけでなく、その土地に根付いたさまざまな迷信のために、適切な治療を施せば助かる病気で命を落とす人々がいます。例えば、「子どもに注射をすると子どもが死んでしまう」、「ポリオは悪魔であり、病気ではない」、「薬を探しに行くだけで病気になる」、「陣痛が始まったことを人に言うと、分娩が遅れる」といった言い伝えが今でも根強く残っています。これらは、親が子に予防接種を受けさせなかったり、ポリオを発症しても病院に行かなかったり、病気になっても薬を飲まなかったり、医療施設での出産を拒否するといった結果を招きます。

「この事業を通じて、住民の意識と行動にポジティブな変化が生まれています。それは保健指標にも表れています」と語るデンゲさんは、今日も住民に寄り添いながら、活動に励んでいます。

事業終了まで残り約1年

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受益者(右)と日赤職員(中央)の通訳をするアダン・デンゲ職員(左)

平成19年に開始したケニア地域保健強化事業。今年で9年目に入り、まもなく日赤の支援も最終年度を迎えようとしています。日赤による支援終了後も、引き続き、これらすべての人々が保健サービスを受けられるよう、日赤はケニア赤や現地保健省と共に事業の移管のための協議を続けていきます。

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