フィリピン・被災者への生計支援~北セブ養豚物語~

2013年11月にフィリピンを襲った台風30号「ハイエン」(フィリピン名ヨランダ)は、6300人以上生命を奪い、約1600万人が被災しました。日本赤十字社(以下、日赤)はフィリピン赤十字社と共にセブ北部の一部を受け持ち包括的な復興支援を行っています。

そのうち、今回は現金支給による世帯生計の再建をご紹介します。日赤はセブ北部で5村を担当しており、そこで現金支給を受けた742世帯から、各村5世帯に対し支給後6カ月目と15カ月目に家計にどう影響を与えたのかを中心に聞きとりを行いました。

養豚の難しさ

現金支給による生計再建は、まず被災者に1万ペソ(約2万2千円)分の生計向上計画を出してもらい、適切と認められれば最初の6千ペソが支給されます。そのお金で買った物のレシートが計画に沿ったものであれば残りの4千ペソが支払われます。

さまざまな生計向上の計画が出されましたが、養豚は全体の55%、407世帯の受益者が選びました。生後1カ月の子豚を買い、3カ月後、フィリピン名物料理「レチョン」*に適した50kgぐらいに肥らせて売るのが一般的です。子豚を産ませて売るようにやり繰りすれば、明らかに大きな収入を見込めるのですが、飼料代が高いため、それまで持ちこたえられないこともよくあるようです。

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日赤の支援で商品を仕入れ直した、エルマさんのお店の前で

ローランドさんは5人の子どもがおり、妻のエルマさんはサリサリ・ショップと呼ばれる雑貨店を経営しています。台風では家族は無事でしたが、自宅は壁の木造部分と屋根が飛ばされ、隣の両親の家にしばらく身を寄せていました。赤十字の1万ペソの支給で、雑貨店の商品、メスの子豚1匹と50kgの飼料を買いました。この飼料が無くなった後は、店の売り上げを餌代につぎ込んで、豚の出産までこぎつけました。

2015年11月に最初の出産で7匹、今年3月の2回目の出産では11匹が生まれましたが4匹が死に、残り7匹とあわせて、計14匹の子豚を売りました。

次に生まれる子豚のうち、1匹は出産まで飼い、母豚を増やす予定です。母豚は4カ月ごとに出産し、子豚は1匹2500ペソ(約5500円)で売れるので、餌代を差し引いてもローランドさん一家の収入は徐々に増えています。

ウェンダさんは夫が闘鶏**のレフリーをしていましたが、闘鶏用ナイフに仕込まれた毒がもとで亡くなりました。ウェンダさんは、村役場の掃除婦としての月収1500ペソで3人の子どもを育てています。

ウェンダさんは支援金で子豚を2匹買いました。子豚も大きくなってくると飼料代がさらにかさみます。2015年4月に1匹を7000ペソで売り、手元に残した豚の餌代にしました。その豚が今年の3月に子豚8匹を出産しました。6匹は売りましたが、2匹は母豚の餌代にするために、飼っています。この7月には、次の出産を迎えます。

子豚による収入で自宅に市の水道を引きました。以前は30m先の井戸から水を汲んで来ていました。「水道はとっても楽です」とウェンダさんのお父さんが横で微笑んでいます。

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子豚の売り上げで自宅に水道をひいたウェンダさん

3カ月育ててレチョン・サイズになった豚を売ると1kgあたり140ペソで売れます。50kgなら7000ペソです。一度に大金が入りますが、それまでに払った子豚代、餌代を差し引くと、3カ月かけた利益は1000ペソから1500ぺソにしかなりません。

バージニアさんの場合は、少しずつ子豚の数を増やし、今は6匹飼っています。6匹なら、3カ月ごとに6000から9000ペソの純利益になります。バージニアさんは2人の娘婿もいれて11人の大所帯です。長女がセブ市にあるコール・センターで働き仕送りをしてくれていますが、やはり今は養豚からの収入が大きく家計を支えています。将来の困ったときのための貯えも少しできました。

将来の課題

このように、聞き取りをした世帯は、幸運なことに今でも豚を飼って収入を増やしています。お宅に訪問して生活の様子を見て、話を聞くと、ほとんどの家庭では赤十字の復興支援が生活再建に役に立っていることを実感します。

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ローランドさん宅で豚を増やす計画について聞く、日赤首席代表の森本要員(右端)

しかし、飼料代を賄いきれないなどのために、豚を売ったきりになっている家族もあるようです。

今後の追跡調査の結果によっては、そうならないように予め受益者に対し研修を実施することも、今後の事業における検討課題です。

註:*「レチョン」 内臓を取り除いて下味をつけた豚を炭火でじっくりと焙る、いわば豚の「姿焼き」。セブ島のレチョンはとくに美味とされる。

**「闘鶏」 フィリピン男性が熱中する娯楽の一つ。訓練された軍鶏の脚に「タレ」という専用の小さなナを装着させて、斬り合いをさせる。タレに毒物を塗布するのは反則。

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