若い人たちに目指してほしい国際救援~映画『風に立つライオン』のリアルストーリー③

名古屋第二赤十字病院院長 石川清医師に聞きました

名古屋第二赤十字病院院長の石川清医師は2000年10月から3カ月間、映画『風に立つライオン』の舞台の一つになったケニア北部ロキチョキオのロピディン赤十字戦傷外科病院(以下、ロピディン病院。赤十字国際委員会(ICRC)が1987年に開設)で医療救援活動に携わりました。

「若い人たちにとって映画『風に立つライオン』が、国際救援を目指すきっかけになれば」と語る石川医師に、ケニアでの経験を聞きました。

日本の医療とのギャップに困惑した日々

ICUで手術後の患者を診察

スーダン国内では当時、激しい紛争が続き、毎日十数人の患者さんが病院に搬送されてきました。

普段は看護師さんが飛行機に同乗してスーダン各地を回り、患者さんを搬送してきます。

私も同乗した経験がありますが、現地には、助かる可能性のある患者さんだけを搬送するという非常に厳しい現実がありました。助かる可能性のない患者さんはそこであきらめるということです。

また、丸一日かけての過酷な状況下での患者さんの搬送は、非常に大変な任務でした。

患者さんのほとんどは銃で撃たれたり爆弾で負傷した人たちでした。ロピディン病院があるロキチョキオ周辺の住民も受け入れていたので、ヘビやワニにかまれたとか、やりで突かれたという患者さんも運ばれてきました。銃で撃たれた患者さんを日本で見る機会はまずありませんから、その意味では「経験したことのない患者さん」ばかりでした。

大変だったのは、日本の医療とロキチョキオの医療の違い。日本人の命の価値とスーダン人の命の価値の違い。日本では助けられる患者さんも、現地ではあきらめざるを得ないことが何度かあり、自分の気持ちの整理が必要でした。私は麻酔科医ですが、何もないところで麻酔をしなければならないことで、自分の麻酔の技量を見直すよいきっかけにもなりました。ロキチョキオの連日40度超という暑さもこたえました。

国際救援活動と国内救護活動に通じるもの

手術で麻酔の管理

「現地での経験を、日本で生かせるとしたら?」と考えたことがあります。

何もないところでも麻酔をしなければいけないとか、医療を行わなければならないという経験は、大規模災害発生時の水も電気使えないときなどに生かされると思います。

そういう可能性も含めて、ロピディン病院での活動はよい経験でした。

阪神・淡路大震災で救護活動に当たった時、被災者の方がたから涙を流して感謝されたことがありました。ケニアでも同じような経験をしました。「助からないと思っていた患者さんが助かった!」と。

私たちの医療で多くの患者さんのいのちを救えたことは、医療従事者としてのやりがいにつながりました。こうしたやりがいが、名古屋第二赤十字病院で国際救援や災害救護を積極的に推進する原動力になっています。国際救援や災害救護にやりがいを見出す若い人が育ってくれれば、私の経験が役に立ったことになるのかなと思います。

赤十字病院だからこそできる活動

手術後の患者さんの管理

国際救援活動についていろいろなところで話しをすると、「自分も行きたいけれど、勤務している病院が許してくれる状況ではないので…」と相談されることがあります。

確かに医療従事者が「救援のために海外に行きたい」と言えば、「じゃあ、病院を辞めて行ってください」となることが多いかもしれません。

その点、国際救援が使命の一つである赤十字では、誰かが「行きたい」と言ったときに周囲がそれをサポートする状況ができれば、それが可能になります。他の病院では難しいかもしれませんが、赤十字病院にはそういう可能性があるのです。

私の場合、阪神・淡路大震災の救護活動で、医療従事者として日常の業務を越えたやりがいを感じたことが、国際救援を志すきっかけでした。その後、国際救援のための研修を受けてさらに興味がわき、自分も活動に参加したいと思い始めました。

ケニアでの3カ月間の経験を通して、本当に有意義な救援活動を行うためには語学力をはじめとして、しっかりした医療技術や心構えが必要であると痛感しました。善意や熱い思いだけでは国際救援はできないと思いました。

国際救援に参加するためには、いろいろな研修を受けて準備しておくこと、また、そういう機会があれば積極的に手を上げて参加することが大切です。「もし災害があれば進んで救護活動に行く」「機会を逃さない」という気持ちを持っていれば、いつか可能性が開けると思います。

映画『風に立つライオン』が国際救援を志すきっかけになれば

映画製作に当たって、プロデューサーの方に当時の様子を伝え、たくさんの写真も提供しました。

赤十字は世界中で頑張っています。ロピディン病院での赤十字の活動を映画で知ってもらうことによって、多くの皆さんに赤十字のことを理解していただけるかもしれません。

国際救援を志す若い人はたくさんいます。この映画がそのきっかけになってくれるといいなと思っています。