その後に生かされたケニアでの経験~映画『風に立つライオン』のリアルストーリー②

大阪赤十字病院国際医療救援部長 中出雅治医師に聞きました

赤十字国際委員会(ICRC)がスーダン内戦の犠牲者を救援するため、隣国ケニア北部ロキチョキオに開設したロピディン赤十字戦傷外科病院(以下、ロピディン病院)。

大阪赤十字病院国際医療救援部長の中出雅治医師は2003年、同病院に派遣されました。

以後、インドネシアやパキスタン、ハイチ、イラク、ネパールやウガンダなどで国際救援活動に当たりました。こうした経験を買われて、映画『風に立つライオン』では医療監修を担当。

中出医師にロピディン病院での活動や映画について聞きました。

一日20人の負傷者を手術する日々

テントの病棟に入院するロピディン病院の患者
©ICRC / Luc Chessex

スーダンから毎日のように負傷者が搬送され、3人の医師で一日に約20件の手術を分担する日々でした。

銃創の治療はもちろん、四肢の切断や帝王切開など専門外の手術や初めての手術が多い上に、電気メスもないような乏しい医療環境。

そういった経験がなかった当時は、うまくいかないことや失敗も多く、日本の患者さんと同じように診療してあげたいと思っても、現実には無理でした。

ロピディン病院は設備も診療内容も違いますから、「日本だったら治してあげられるのに」と思っていても仕方がないし、割り切ることが必要になります。今はその葛藤の時期が過ぎましたが、当時は悩みましたね。

ロピディン病院の後も世界各地に派遣されました。大阪赤十字病院に帰るたびに、国際救援活動の現場で求められる整形外科や産婦人科などのスキルを高めるため、手術の際に勉強させてもらいました。

現地であまりうまくいかなかった経験を、次の派遣で生かしたいと思ったからです。

海外で広がった医療職としての視野

主演の大沢たかおさん(写真右)に医療指導する中出医師(同中央) ©「風に立つライオン」製作委員会

一般的に医者は、非常に特殊なことに携わっているため、視野が狭くなりがちです。日本の医療や自分が勤務する病院の医療が、世界の常識であると思ってしまうことも。

しかし、国際救援活動のために派遣された国での経験を通じて、先進国の常識が世界の常識ではないことがわかりました。

日本人は、日本の医療のガイドラインは国際的な標準だと思いがちですが、現実は違います。

それはあくまで先進国の標準であり、世界の200あまりの国々のうち、せいぜい20~30カ国でしか通じません。そういうことは日本にいるとわからないのです。

ですから国際救援活動で得た一番大きなものは、視野が広くなったということでしょうか。

  

自分を型にはめず、身も心もフレキシブルに

私が国際救援を目指したきっかけは、阪神・淡路大震災での救護経験です。大阪赤十字病院に勤務して2、3年目くらいでした。すごく忙しくて、毎日終電車で帰宅するような生活をしていたころ震災が起き、私も救護班の一員として現場で医療活動に当たりました。

その時、被災者の方がたと接しながら「こういう活動も必要とされるんだ」とあらためて気づき、機会があれば国際救援活動にも参加してみたいと考え始めました。

国際救援の現場を目指す方には、こんなことをお勧めします。日赤が行っている国際救援活動にはさまざまな事業があり、それぞれ必要とされるスキルは異なるので一概には言えませんが、まずは自分の職業で一人前になることが大切。

そしてどんな活動でも共通して必要なのは、英語を含むコミュニケーション能力です。特に英語は世界の公用語となっているので、国際活動を志す上では必須です。

また海外では想定外の事態の連続で、日本での認識との違いに驚くことが珍しくありません。だから、自分を型にはめないで、とにかく身も心もフレキシブルにしておくことが重要です。

映画を通じて

ケニアの撮影現場でモニターを見る三池監督(写真中央)と中出医師(同右)©「風に立つライオン」製作委員会

ロピディン病院が舞台の一つとなっている映画『風に立つライオン』には、医療監修として協力させていただきました。

準備段階から医療にかかわる美術や衣装、小道具、負傷者の特殊メークなどについてアドバイスし、医療系の英語のセリフや出演者への技術指導にも当たりました。

さらにケニアでのロケに3週間にわたり帯同。病院や手術室のセット、現地出演者の傷のメーク、手術中の状況づくり、出演者へのアドバイスなど、お手伝いをすることはたくさんありました。

ロケ隊は200人を超える大所帯。中には病気やけがをする人もいたので、医師本来の仕事もありましたね(笑)。

三池崇史(みいけたかし)監督の横に座ってモニターをチェックし、シーンによっては意見を求められることも少なくありませんでした。ある時、手術室のシーンで脚本のセリフについて出演者の大沢たかおさんと石原さとみさん、三池監督と私の4人で30分ほど話し込み、大幅に内容が変わったこともあります。

映画はエンターテインメントなので、医療監修としてどこまで現実に近づけるかというさじ加減が難しいところ。映画『風に立つライオン』を通じて、当時のロピディン病院の雰囲気が観客の皆さんに伝わるといいなと思います。またこの映画を見て医療を志す人が出てくると、うれしいですね。

「ドクター中出のカロンゴ日記」はこちらから

中出医師は2012年、アフリカ東部のウガンダにあるアンボロソリ医師記念病院(通称、カロンゴ病院)で医療救援活動に従事しました。赴任中の現地の様子「ドクター中出のカロンゴ日記」として、日本赤十字社の機関紙『赤十字NEWS』でご覧いただけます。

「ドクター中出のカロンゴ日記」はこちら(PDF:2.8MB)