核兵器廃絶に向けた赤十字の取り組み

~歴史的経緯に触れながら

スイス・ジュネーブで2011年11月に開催された国際赤十字・赤新月運動代表者会議(以下、赤十字代表者会議)で、「核兵器廃絶に向けての歩み」と題した決議が採択されました。

この決議は、国際人道法に基づく人道機関である赤十字としての核兵器に対する立場を明確に示したもので、核兵器廃絶を論じる潮流のなかで、赤十字の主張が世界的なメッセージとなったという点でも重要です。

今回はこの代表者会議での決議を軸に、赤十字がどのように核兵器問題にかかわってきたのか、歴史的な経緯に触れながらご紹介します。

長崎市長の思い

長崎の伊藤一長市長(当時)は1995年11月7日、国際司法裁判所(以下、ICJ)での陳述のなかで、次のように述べました。「ノーベル平和賞を受賞されたマザーテレサは、長崎の原爆資料館に展示してあるこの写真を見て、『すべての核保有国の指導者は、ここに来てこの写真を見るべきだ』と言いました。あえて私からも申し上げます。すべての核保有国の指導者は、この写真を見るべきであります」

ICJによる勧告的意見

国連は1994年12月、総会で「いかなる事情の下においても、核兵器の威嚇または使用は、国際法上許されるか」について、ICJに勧告的意見を要請することを決議しました。

ICJは1996年7月、「核兵器の威嚇または使用は、武力紛争に適用される国際法の諸規則、特に国際人道法の原則および規則に一般的には違反するだろう」としながらも、「国家の存亡そのものがかかった自衛の極限的な状況の下では、合法であるか違法であるかを裁判所は結論できない」とした上で、「すべての国が核軍縮交渉を誠実に行い、それを達成する義務がある」と宣言しました。

潘基文国連事務総長による5つの提案、オバマ大統領による演説

その後、潘基文(パンギムン)国連事務総長が2008年10月に行った核軍縮に向けた5つの提案や、オバマ大統領が2009年4月にプラハで「アメリカは核兵器のない平和で安全な世界を希求する」と表明した演説などにより、核兵器廃絶は夢物語ではなくなりました。

潘基文(パンギムン)国連事務総長による5つの提案

①すべての核不拡散条約(NPT)締約国、とりわけ核保有国が軍縮の義務を履行すること。核兵器禁止条約の交渉開始も考えるべき。

②安保理常任理事国が核軍縮プロセスにかかわる安全保障問題の協議を開始すること。

③包括的核実験禁止条約(CTBT)、核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)、非核兵器地帯、IAEA 追加議定書などを通じ、「法の支配」を強化すること。

④核保有国が説明責任および透明性を強化すること。

⑤他の大量破壊兵器の廃絶を含む、核軍縮の補完的措置が必要であること。

2010年5月の核不拡散条約(NPT)再検討会議

2010年5月の核不拡散条約(NPT)再検討会議における「核軍縮のための行動計画」で「すべての国が常に国際人道法を含むすべての国際法を順守する必要性を再確認する」という文言を盛り込んだことは、それまで核兵器使用の非人道性に基づく不使用・廃絶を訴える活動を行ってきた人びとには喜んで受け入れられました。

核兵器を保有したり、その傘の下にある国がこのように認識するようになったことがこれまでと異なる点で、赤十字が各国政府や市民団体から、核兵器問題についての見解を求められるきっかけとなりました。核兵器の人道性が問われる時、そこに赤十字が深く関与するのは当然のことです。

赤十字代表者会議での決議

2011年赤十字代表者会議での朝長院長(当時)によるプレゼンテーションの様子

2011年赤十字代表者会議での朝長院長(当時)によるプレゼンテーションの様子

この世界的流れの中で、2011年の赤十字代表者会議では、核兵器の使用禁止を強く訴える決議が採択されました。

決議案の説明に続き、日本赤十字社長崎原爆病院の朝長万左男院長(当時)により、自らの被爆者としての体験と、長年被爆者医療に関わってきた知見から、長期にわたる健康被害の現実についてプレゼンテーションが行われました。

さらに、2013年の赤十字代表者会議では、具体的な4カ年行動計画を含む決議が採択されました。

4カ年行動計画についてはこちらをご覧ください(PDF:217KB)

2011年赤十字代表者会議決議「核兵器廃絶に向けての歩み」の概要

  1. 核兵器の使用によってもたらされると予想される計り知れない苦痛や、それに対する十分な人道的援助能力の不在、そして核兵器使用を阻止する絶対的な必要性を強調する。
  2. 国際人道法の基本原則と両立しうるような核兵器の使用が想定できないことを確認する。
  3. すべての各国政府に対して次のことをを訴える。①核兵器の適法性に関する各国政府の見解のいかんにかかわらず、核兵器が再び使用されることがないように保証すること。②核兵器の使用を禁止し、廃絶するために、早急かつ決定を伴う交渉を、誠意をもって行い結論を導くこと。

本ニュースのPDF版はこちらからご覧ください(PDF:579KB)