南部アフリカでHIV/AIDS感染者を支援~日赤の医師らが現地へ

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日本からマラウイやスワジランドへは、香港と南アフリカを経由して約20時間かかります

南部アフリカ地域はHIV/AIDSのり患率が非常に高く、世界のHIV感染者の3分の2がこの地域で暮らしているといわれます。

日本赤十字社(以下、日赤)は2010年から、南部アフリカ地域での感染症対策を強化するため、特に必要性が高いスワジランド、マラウイ、レソト、ナミビアの4カ国で、国際赤十字・赤新月社連盟を通じた支援を行っています。

日赤はこの事業について定期的に調査や評価を行っており、今回は感染症の専門家である日赤和歌山医療センターの大津医師と堀本看護師、本社国際部の上田職員が、スワジランドとマラウイを訪問しました。最新の現地の様子をお伝えします。

スワジランド~伝統的な治療師がクリニックへの架け橋に

シレレクリニック内を視察する大津医師(左から2人目)と説明するメシア看護師長(右)

シレレクリニック内を視察する大津医師(左から2人目)と説明するメシア看護師長(右)

スワジランドは南アフリカとモザンビークに挟まれた国で、日本の四国よりやや小さいくらいの面積。

1人当たりの国民総所得(GNI)は3300米ドル(約33万円:2012年)と、南部アフリカ地域では比較的高い経済力を持っていますが、貧富の差が激しいのが現状です。

一方、HIV感染率は人口の26.5%と世界一高く、国民の4人に1人がHIV陽性者です。

スワジランド赤十字社は国内で3つのクリニックを運営。地域住民に対する診療とともに、HIV/AIDSや合併感染しやすい結核の治療、感染者への往診・食事の配給、感染予防や家族計画に関する啓発活動など、包括的な地域保健サービスを提供しています。

日赤はその1つ、シレレクリニックを支援しています。そこで中心になっているのはメシア看護師長です。彼はイギリスでも診療経験がある有能な看護師で、患者の信頼を集めています。クリニック内も清潔に保たれていました。

民間療法とのコラボレーションで成果

治療師のシェドラックさん

治療師のシェドラックさん。自宅に隣接する小屋が診察室として使われており、棚には民間療法に用いる品が並びます。左上は頭痛に効くといわれる乾燥させた蛇の皮

スワジランドの村落部では、今も「伝統的な治療師」への信仰が厚く、住民は体調が悪い時などはまず治療師に相談します。

呪文を唱えて先祖と交信することで、患者の病状や処置を決定すると言います。しかし、薬草や動物の皮などを処方された結果、必要な治療が施されずに手遅れとなってしまうケースが多いのも現実です。

こうした中でメシア看護師長は昨年から、治療師を対象としたワークショップを開き、民間療法の否定ではなく、西洋医療と共存するための活動を開始しました。治療師はワークショップを通してHIV/AIDSや結核の兆候、診療方法などを知り、患者がどのような場合にクリニックへの受診を促すべきかを学びました。

ワークショップに参加した治療師のシェドラックさん(60歳)はこう語ります。「ここで知識を得たおかげで、患者に民間療法を施した後にクリニックでの受診も勧めるようになりました。亡くなる人が減った結果、住民は今まで以上に私を信頼してくれます」。

この地域では今、伝統的な治療師がクリニックへの架け橋になりつつあります。

マラウイ~住民自らの力で切り開く明日

日赤が支援する「子どもケアセンター」

センターの訪問が午後にずれ込んでしまったため、待ちくたびれて歌いながら居眠りしてしまう子も

マラウイは湖に沿って南北に延びる農業国。

国民の8割がトウモロコシやタバコ栽培に従事し、1人当たりのGNIは320米ドル(約3万2千円:2012年)。HIV感染率は人口の10.8%です。

マラウイ赤十字社(以下、マラウイ赤)は日赤の支援を、HIV/AIDSで親を亡くした子どもたちのケアや、HIV感染者の生計向上に活用しています。

事業地は首都リロングウェから100キロ北に位置するンチシ県です。日赤が支援する「子どもケアセンター」は県内に4カ所あり、HIV孤児だけでなく、貧困世帯の子どもたちも集まる託児所のような役割を果たしています。

センターは毎日午前中のみ開園し、住民のボランティアが世話役となって子どもたちに朝食を与え、読み書きを教えて一緒に遊びます。日赤の職員らが訪問すると、50人以上の子どもたちが歌やアルファベットの暗唱などを披露してくれました。

「お金だけで課題は解決できない」

高床式のヤギ小屋

高床式のヤギ小屋。ふんが下に落ちるために衛生的で、堆肥として集めやすい造りです。ヤギがはしごを上る様子を見せてくれました

HIV感染者でつくるサポートグループによる、生計向上の活動も視察しました。

メンバーの世帯にはヤギまたは豚が提供され、そこで生まれた子ヤギや子豚を他のメンバーに譲り渡すことによって、収入や食糧源を持続的に得るという仕組みです。

リーダーのキリフォリさん(57歳)は、「今ではわが家の豚は6匹に増えました。おかげで家を建て、自転車や肥料も購入することができました」と笑顔で語ります。

キリフォリさんは2005年からHIVの治療を受けており、今も元気で農作業に従事しています。自転車があるため、通院も楽になったと言います。

ある村では立派なヤギ小屋に案内されました。マラウイ赤が技術のみを指導し、サポートグループのメンバーたちが資材を購入。みんなで協力し合って建てた小屋です。グループ内でお金を積み立て、少額を融資し合う制度もあります。

左から、堀本看護師、大津医師(ともに和歌山医療センター)、上田職員

左から、堀本看護師、大津医師(ともに和歌山医療センター)、上田職員

主体的に行動し、支援をさらに発展させていく住民たち。

「課題解決に大切なのはお金ではなく、住民自らのかかわりです」と、マラウイ赤の担当者が誇らしげに語る様子に、日赤職員も大きくうなずきました。

HIV感染者・HIV孤児の生活の安定を目指して支援を継続

スワジランドやマラウイで事業にかかわる現地のスタッフは、誇りを持って活動し地域住民との良好な関係を築きながら、日赤の支援を有効に活用しています。こうした取り組みの結果、南部アフリカ地域でのHIV/AIDSをめぐる状況は着実に改善し、感染者も以前より格段に長く生きられるようになりました。

赤十字運動月間

しかし、政情不安や気候変動、ぜい弱な経済基盤などのために、この地域に住むHIV感染者の多くは依然として苦しい生活を余儀なくされています。

こうした現実に対して、日赤はこれからも、南部アフリカ地域のHIV感染者やHIV孤児たちの生活の安定を目指した支援を継続していきます。