ハイチ大地震被災者支援:母子保健支援を継続中

「イベントではたくさんの人が集まるので、健康に関する情報を伝えやすい」と池田専任教師

「イベントではたくさんの人が集まるので、健康に関する情報を伝えやすい」と池田専任教師

2010年に大地震に見舞われたハイチ共和国。日本赤十字社は緊急救援を終えた後も、衛生設備などが発達していないハイチの復興のために、水と衛生環境の整備や保健分野を支援してきました。

住民のいのちと健康を守るための活動を、現在も被災地で続けています。

入院施設のある病院までは車で1時間半

日赤が支援している保健事業の活動地レオガンは、14の区に分かれていて、その区の中に町(Habitation)があります。日赤は、2区と3区に点在する計17の町で活動をしており、支援対象者は約3万6000人にのぼります。

「2区の中心地には5つの病院があります。しかし、地震前には入院施設は1つもなく、40キロほど離れた首都に搬送される途中で、多くの患者がいのちを落としていました」。2012年2月からおよそ1年間にわたり、現地で活動した大阪赤十字看護専門学校の池田 載子(のりこ)専任教師は、震災前から困難な状況に置かれていた被災地の医療事情について指摘します。

地震の後、レオガンには私立病院やNGO支援の産科専門病院、結核療養所、ミッション系病院などが開院しました。NGO病院と結核療養所では無料で診察が受けられます。ミッション系病院は有料ですが、他の私立病院に比べて診察代はかなり割安となっています。

しかし、地震後の2年間で、3~4カ所の医療施設が閉鎖してしまいました。さらに病院は区の中心部に集中しており、日赤が保健事業を展開している17の町には、定期健診や予防接種を無料で行うクリニックがあるだけ。入院施設のある病院へは、車で1時間半もかかる状態が依然として続いています。「病院が区内にあるとはいえ、恵まれた医療環境ではない地域が多いのが実情です」と池田専任教師。

無料病院へ殺到する妊婦たち

この保健事業では、母子保健に力を入れています。「家族計画」「安全な妊娠と出産」「新生児のケア」「栄養と母乳」「ワクチン接種」に取り組んでおり、妊婦には医療施設での産前検診と出産を勧めています。

ところが震災前からあった産科施設の一つが2012年に閉鎖したため、対応できる施設が減少。さらに、出産費用を捻出できない妊婦が無料のNGO病院に殺到したことで、そこでの出産件数が月に600~700件と過剰な状態になってしまいました。

こうした事態に、NGO病院は「ここへの搬送は、正常分娩以外の困難なケースだけに限ってほしい」と悲鳴をあげています。一方、私立病院は「無料の病院があるために、妊婦が私立病院に来ない」と訴えるなど、医療施設間の調整が課題となっています。

産科が少ないことに加えて、費用がかかることから医療機関を使わない妊婦も依然として大勢います。そうした妊婦は、自宅でマトロンと呼ばれる伝統的産婆や家族の介助で出産します。そのために、妊産婦死亡率は10万件の出生に対して350人と非常に高く(日本は5人)、出生時に医療機関で接種できるBCGやポリオワクチンを受けていない子どもが多くいます。

家族計画と性感染症予防を

12月1日の世界エイズデーを目前に、地域でエイズキャンペーンを実施。たくさんの人が興味を持って参加してくれました

12月1日の世界エイズデーを目前に、地域でエイズキャンペーンを実施。たくさんの人が興味を持って参加してくれました

ハイチの女性1人あたりの出産数は2.98人(日本は1.39人)。正式な婚姻関係を結ばずに、子どもをつくるカップルが少なくありません。

人口統計機関によると、35%のカップルは何らかの避妊方法を用いていますが、残り65%のカップルは避妊していません。

また、カーニバルや新年のお祭り騒ぎの後には、劇的に妊婦が増えることもあります。カーニバルの名前にちなんで、「ララ・ベイビー」と呼ばれるほどです。

現地での避妊方法で一番多いのは、効果が持続し簡便なホルモン剤注射(19%)で、副作用が少なく男性の理解と協力が得られない状況でも避妊できる利点があります。一方で性感染症のリスクは防げません。

その次がコンドーム(5%)で、1箱3個入りで20円~70円です。自分で購入する人はほとんどなく、避妊というよりは、性感染症予防で定着しているようです。このため、保健事業で育成したボランティアが、家庭訪問や集団教育の機会に、コンドームによる家族計画や性感染症の予防の必要性を説明。カーニバルや新年の前には、通常より多く配布する工夫も行われています。

幼児を持つ母親を家庭訪問して、新生児のケアについて説明する保健ボランティア

幼児を持つ母親を家庭訪問して、新生児のケアについて説明する保健ボランティア

池田専任教師は「最近では、住民がボランティアにコンドームをリクエストするようになり、地道ながらも活動が定着してきたと実感できました。

『避妊はしない』と言っていた7児の母親をボランティアが何度も訪問し説明するなど、健康に関する情報を伝えることで、家族計画の必要性を認識したり、医療施設での出産を理解する人も多くなってきました」と、手応えを感じながら事業に取り組んできた1年余りを振り返ってくれました。

医療施設の充実という大きな課題はありますが、保健事業では引き続き、住民の健康維持と医療機関での適切な診断・治療を勧めながら、地域保健にかかわりのある保健機関とも協力体制を築いていきたいと考えています。