平成28年3月 第87回代議員会

第87回代議員会

挨拶をする近衞忠煇社長(写真左)、大塚義治副社長(同右)

本日はご多用のところ、代議員会にご出席をいただきまして誠にありがとうございます。

本日の代議員会では、社員制度の見直しのほか、平成28年度の事業計画と収支予算をご審議いただくこととしておりますが、はじめに私からは、社員制度の見直しと、医療事業の本部制への移行後の展望について所見を述べさせていただきたいと思います。

まず、皆さまもご存じのとおり、このところ国際情勢は極めて流動的で、人道的に目の離せない厳しい状況が続いております。特に、5年目に突入したシリアの内戦を中心とする中東の情勢はいっそう混迷の度を深めています。それに伴うヨーロッパへの大量の難民の流入は、その対応を巡って各国内で、また地域や国家間で大きな亀裂を生んでいます。

一方近年、気候変動に伴う災害の増加も著しく、こうしたグローバルな傾向を見るにつけ、赤十字が関心を持たざるを得ない人道的ニーズが確実に高まっていることを強く感じ、それにどう対応すべきかに頭を悩ませているところであります。

経済に目を向ければ、長期的な経済の低迷に加えて新年早々、株価が乱高下し、国際的に不安定な経済環境にわが国は振り回されております。それは各国とも同様であり、そのため、人道支援に必要な財源の確保が一段と厳しさを増しております。国際赤十字では、こうした状況に対応すべく、ソーシャルメディアなどを使った新しいグローバルな募金の方法も検討しております。

国内では、わが国は長期にわたって深刻な財政問題を抱えており、一番大きな負担となっている社会保障費の上昇にいかに歯止めをかけるかが懸案となっております。従って国の時々の方針によって、日本赤十字社(以下、日赤)最大の事業である病院経営をはじめ、血液、福祉、その他の事業のあり方が大きく影響されることは避けられません。この数年の診療報酬の引き下げは、すでに病院経営に大きなマイナスの影響を及ぼしております。政府は目下、地域医療の見直しに着手しております。各地の92の赤十字病院がそれぞれ、将来にわたって地域医療の中でどのような役割を果たしていくかを、今ここで真剣に考えなければなりません。

歴史を振り返ると、それぞれの赤十字病院は、時々の地域の要請に基づいて、また自治体や有志の協力によって設立されてきました。それだけに地域性が強く、各病院がその地の実情に即した経営ができるよう、独立採算を旨としてきたのはそうした沿革によるものです。しかし、せっかくある92もの病院が持つスケールや、ネットワークのメリットを生かすことは、特色を生かす上で、当然考えていかなければなりません。そのために、この4月から本社は、医療の事業本部制を発足させ、赤十字病院がより総合力を発揮するための調整役になることを目指しております。

ところで、日赤の諸外国の赤十字にはない特色とは何かと言えば、まずは大規模に多くの事業を展開していることであります。病院経営、看護師等の養成、血液、福祉、救急法・健康生活支援講習等の予算は1兆4000千億円に達し、職員数も6万6000人規模となっています。その上に、それらを支える赤十字奉仕団・ボランティアや青少年赤十字の、全国ネットワークを持っています。各事業がそれぞれの分野で実績を残し、その上で連携を深めていけば、他団体では図れない相乗効果と特色を発揮できるものと確信しております。

その一例として、東日本大震災では、各事業の壁を乗り越えて、「オール日赤」の取り組みができ、一体感も存在感も高まりました。ただし、その時の大きな反省点として、全国に展開する赤十字奉仕団・ボランティアの活躍が十分に把握できず、また、救護活動の中に明確に位置付けられていなかったことが挙げられます。日赤は多くの施設や職員を抱えているために、ともすれば活動は職員中心になりがちですが、赤十字の原則の一つは「奉仕」であり、世界の大半の国では赤十字の活動の多くをボランティアが担っています。

挨拶する近衞社長

私は先日、昨年エボラ出血熱が猛威を振るった西アフリカのシエラレオネとギニアの二カ国を訪れました。

シエラレオネの国土は九州の約2倍、人口610万人、ギニアはほぼ本州の大きさで人口1170万人ですが、1990年代の10年間に及ぶ国内紛争で発展が遅れ、ようやく政治経済が安定に向かおうとしていた矢先にエボラが流行しました。

保健・医療のインフラは貧しく、住民の衛生知識は乏しく、国際的な支援があっても治療法の確立されていない病気だけに、対応にはさまざまな試練がありました。

国際赤十字・赤新月社連盟は、流行国やその周辺など17カ国を対象とする約230億円の支援要請を行い、これまでに830万人を援助しました。日赤は約1億4000万円の資金拠出を行うとともに、医師一人を派遣しました。それぞれの社が行ったのは、ボランティアによる①住民への感染予防の啓発活動、②患者接触者の追跡調査と観察、③患者の治療、④患者の家族やボランティアへのこころのケア、⑤安全かつ尊厳ある遺体の埋葬と除染でした。

西アフリカの三国では、約1万人のボランティアが研修を受けてこれらの活動に携わりましたが、誤解や偏見を受けて村八分になったり、精神的・肉体的な危害を加えられた者も多く、そのためのこころのケアが必要となっています。

特に難しかったのは、死者の体を水で清めるなどの、伝統的な死者を弔う習俗を改めることでした。感染は接触によって起きるからです。それでも、地域のリーダー、宗教指導者らを説得して、ギニアでは遺体埋葬の100%、シエラレオネでは50%を赤十字ボランティアが行いました。終息に向かうまでの間、ギニアではすべての遺体は一旦、赤十字に引き渡され、エボラ感染のチェックの後、遺族に帰されています。現在も村々でエボラ出血熱の疑いのある住民がいないかどうかボランティアによる観察が行われ、検査が継続されています。

今回の患者総数は、世界保健機関(WHO)によれば2月28日現在2万8639人、うち死亡者1万1316人となっています。海外からの専門家や機材、資金の協力、その直面した困難だけが話題になりがちですが、公衆衛生と関わる感染症の対策には、住民の理解と協力を得るために、地元に根付いたボランティアのサポートが不可欠であり、あらためて赤十字はボランティアの組織であることに誇りを感じました。

話を先に戻して、日赤の総合力を高めるためには、それぞれの地域の中で、赤十字の活動がどれだけ浸透しているか、支持基盤がどうなっているかをチェックする仕組みが必要です。

近年、血液事業が本部制を敷いて広域的な運営を始め、このたび、病院経営も本部制を取り入れることになったために、支部の権限と役割が小さくなるとの印象を持たれる向きもあるかも分かりませんが、管内のすべての活動を掌握し、支持基盤であるボランティアや会員のサポートといかに強く結びつけ、行政や他団体との橋渡しの役割を演じられるのは支部しかありません。むしろ都道府県支部こそが、その役割の重要な担い手となることを期待しています。

各地域で赤十字を支えていただいている代議員の皆さまには、こうした方針の下で、赤十字の存在感をより一層地域で高めていただくために、ぜひ力を貸していただきたいと思います。私も皆さまと心を一つにして、共に歩みを進めていきたいとの決意を最後に申し上げ、挨拶といたします。