平成27年5月 全国赤十字大会挨拶

20150513全国赤十字大会社長挨拶

参会者に挨拶する近衞社長

本日、日本赤十字社名誉総裁皇后陛下、ならびに名誉副総裁秋篠宮妃殿下、常陸宮妃殿下、寛仁親王妃殿下、高円宮妃殿下をお迎えし、日頃から赤十字を支えてくださっている多くの皆さまとともに、全国赤十字大会を開催できますことは大きな喜びであります。

先日、天皇皇后両陛下は太平洋戦争の激戦地、パラオを訪問されました。戦後70年を経た今日まで、戦没者慰霊の旅を続けておられるお姿に深い感銘を受けました。

一度、干戈(かんか)を交えたならば、人びとの心の傷を癒すには、ざっと百年の歳月を要すると言われます。我が国にとっても、未だ長い道程が残されている最中にも、世界各地では新たな紛争や対立が芽生え、故郷を追われた人びとは行く先々で多くの危険と困難にさらされております。昨年1年間には、アフリカや中東からヨーロッパを目指して27万人もが地中海を渡り、うち約3500人が命を落としています。各国の赤十字はそうした状況を深く憂慮し、犠牲者の救援に全力を尽くすと同時に、国際人道法の一層の普及や、非暴力の文化、多様性の尊重を訴え続けております。

赤十字は、19世紀最大の激戦に遭遇したアンリー・デュナンの「戦場にも慈悲を」という悲痛な叫びの中から生まれました。敵味方の区別なく、同じ人間として公平に救護の手を差し伸べるには、活動の中立性が広く受け入れられ、尊重されねばなりません。そこから現在、世界189カ国の赤十字・赤新月社が共有する7つの原則が生まれました。今年は、それが承認されてから50年の節目を迎えます。

今日では国連をはじめ、主だった国際的な人道支援機関は、そのうち「人道」「公平」「中立」「独立」の原則を赤十字と分かち合っており、その下で紛争や災害の犠牲者の救援にあたっています。そして赤十字は、これらの原則を平時にも敷衍(ふえん)して「人びとの命と健康と尊厳を守る」ために、医療、血液事業、福祉等、様々な分野に活動の手を広げてきました。グローバルな時代を迎え、国際社会が共通の原則を分かち合い、多くの困難に直面しながらも、深刻な人道危機に手を携えて立ち向かえるようになったことは画期的であります。

先月25日にネパールを襲った大地震でも国際社会は協力して対応にあたっております。日本赤十字社は、国際赤十字・赤新月社連盟のもとで、資金や物資を提供するとともに、発災翌日から保健医療チームを現地に派遣し、現在、15名が首都カトマンズから車で2~3時間の山間の被災地で必死の救援活動を続けております。

一方、気候変動に伴い増加傾向にある自然災害への備えについては、より地域に根差したきめ細かい取り組みが求められています。この三月に仙台で開かれた第3回国連防災世界会議では、今年から15年間の「防災枠組み」を採択し、四つの優先課題として、1.災害の危険性の理解、2.災害対応の制度とガバナンスの強化、3.災害に強い体質作りのための投資、4.災害への総合的な備えの強化と復興を開発に結びつける取り組み、を設定しています。

会議にオブザーバーとして参加した国際赤十字・赤新月社連盟は、その中で特に、ボランティアの役割の重要性を訴え、「災害に備える10億人の輪」を作る運動を提唱しました。将来、大きな災害の発生が予想される我が国において、日本赤十字社は「災害からいのちを守る」をスローガンに、「復旧・復興」のみならず、「防災・減災」の段階から継続的に取り組めるよう、体制の見直しを進めております。

その中で、全国にネットワークを広げる青少年赤十字は、防災教育に大きな役割を果たせるでしょうし、各地の赤十字奉仕団は、被災者の傍らに寄り添い、迅速できめ細かい支援を行う上で、より欠かせない存在になっていただけると信じております。

今年は、広島、長崎への原爆投下から70周年の節目の年でもあります。国際赤十字は、近年、核兵器の使用は人道のルールに悖り(もとり)、その結果に対して何人も責任を負えないことから、廃絶すべきと繰り返し訴えています。被爆者の数が、高齢化で年々減少する中で、日本赤十字社としては、この秋、4年に一度政府も加わって開かれる国際赤十字・赤新月社会議で、彼等の切実な思いを発信していきたいと考えております。また我が国は、原爆と原子力発電所事故の二つを共に経験した唯一の国であり、その経験と、それへの備えの必要性についても伝えていく責任があると考えております。原子力発電の賛否はともかく、原発がある以上、万が一に備えるべきというのが我々が学んだ教訓であり、関心を寄せる赤十字・赤新月社と情報を交換し、共通のガイドライン作りを目指しております。

 赤十字の7原則の採択50周年を機に、今我々のやるべきこと、やれることは何かを、志を同じくする皆さまとともに考えていく、有意義な年になることを念願しております。

日本赤十字社 社長 近衞忠煇