平成27年3月 第85回代議員会あいさつ

 

3.20代議員会で挨拶を述べる近衞社長.JPG

挨拶を述べる近衞社長

本日はご多用のところ、代議員会にご出席をいただき誠にありがとうございます。本日の代議員会では、平成27年度の事業計画と収支予算をご審議いただくこととしておりますが、はじめに私からは、日本赤十字社を取り巻く内外の環境と、それへの取り組みについてお話ししたいと思います。

3月14日から5日間にわたり、仙台市で第3回国連防災世界会議が開かれました。186カ国の政府、国際機関、国内外のNGO等からの総勢5000人の代表と並んで、国際赤十字・赤新月社連盟も、47社からなる120人の代表団がオブザーバーとして参加し、会長の私をはじめ、多くの社の代表がいくつもの会議で発言し存在感を示したところであります。

たまたま会期中の3月13日から14日にかけて、南太平洋で発生した超大型のサイクロン「パム」は、バヌアツを直撃し、被災者は人口の半数に上る約13万人が見込まれるなど、大きな被害が出ています。会議に出席していたバヌアツ赤十字の社長は、連盟と合同で記者会見を行い、救援活動の見通しについて述べました。連盟は、直ちに調査団を派遣するとともに、約5億円のアピールを出しました。日本赤十字社は、連盟の調査チームと連携すべく、先日、職員を現地に派遣し、その結果を踏まえて支援を行ってまいります。

バヌアツを襲った今回のサイクロンもそうでありますが、近年、気候変動などを背景に世界中で自然災害が多発しており、ある研究では、2014年中に起きた大災害は402件に上り、1万7000人が亡くなり、9200万人が被災しています。同時に人口増加や都市への人口の流入、大規模な人口移動等によって、災害への備えを欠く住民の数は、近年、ますます増大する傾向にあります。

赤十字はこれまでも災害救護だけでなく、国内外の防災・減災に取り組んできたところでありますが、2005年に採択された「兵庫行動枠組」に代わる新たな国際的な防災戦略が議論されるこの機会に、国際社会がより災害弱者に焦点を当てるよう訴えるとともに、草の根にまで広がる赤十字のもつネットワークと世界を結ぶ人道の力を結集して、あらゆるレベルでの災害への一層の備えに貢献していく覚悟を表明しました。

連盟は「2020年に向けた戦略」の柱の第一に、各国の赤十字社の災害への対応能力の強化を掲げており、その中間地点で改めてそれに向けての決意を確認する機会ともなりました。人びとの健康の増進もこの「戦略」の二番目の柱であり、各国の赤十字は個別に、また協力してさまざまな取り組みを行っております。

昨年、西アフリカで流行したエボラ出血熱への対応では、赤十字は「国境なき医師団」と並んで、WHOの主要なパートナーの役割を果たしました。日本赤十字社では昨年5月と8月に、現地に医師延べ2名を派遣しましたが、さらなる拡大や国内に流入した場合に備え、全国の赤十字病院のうち、国際医療救援拠点病院や第一種感染症指定医療機関等となっている15の病院から医師・看護師ら36人を招集し、「国境なき医師団日本」とともに研修を実施しました。シエラレオネの国際赤十字・赤新月社連盟のエボラ治療センターを模して作られたセットで、ものものしい防護服に身を固めた訓練は、実戦さながらで真剣そのものでした。

自然災害の増加傾向と並んで、混迷を深める国際情勢と、それに伴う治安の悪化も赤十字にとって大きな試練となっております。2013年末現在の難民・避難民の数は5000万人に上り、第二次大戦後の記録を塗り替えました。赤十字は、「戦いの中にも慈悲を」というアンリー・デュナンの訴えを実現することから始まっておりますが、そのためには活動の「中立」が保障されることが必須の条件であります。

今年は「人道」「公平」「中立」など、赤十字の7つの基本原則が、政府の代表も入った国際会議で採択されて50年を迎える節目の年となりますが、いまや、それらが文字通りには通用しない状況があちこちに見られます。

内戦が5年目に突入したシリアやその周辺では、難民や犠牲者が増え続けており、その救援にあたっているシリアでの赤新月社のスタッフやボランティアの殉職者は、すでに47人にのぼっています。ウクライナとロシアとの間では、紛争地域への救援物資の搬入は、赤十字の手で行うとした停戦の合意が踏みにじられてきました。国連によれば、2013年に人道活動に携わる460名の人員が251回にわたって攻撃を受け、155人が殺害されています。アメリカ政府はこの点でも、昨年記録が塗り替えられたと発表しています。

それでも赤十字は、大きな制約の中でもあらゆる違いや対立を乗り越えて、連帯できる数少ない貴重な場であり続けています。その根幹にある人道の精神と、それを法的に保障している国際人道法の理解と尊重を、世界中の人びとにどう訴えていくのかが、赤十字に改めて問われている喫緊の課題であります。

先に述べた国際赤十字・赤新月社連盟の「2020年の戦略」の三番目は、「非暴力の文化」、「多様性」、「寛容の精神」の醸成であります。海外にとどまらず、我が国にとって昨今、それは他人事と言えない関心事であり、私たちにも自ら考え行動していくことが求められています。

さて2011年、赤十字運動は核兵器の使用は人道の原則に違反すること、またその甚大な結果に誰しも責任を負えないことから、改めて廃絶を訴えました。このことは、それまでもっぱら政治的、軍事的な文脈で捉えられ、一向に捗らない核兵器廃絶への取り組みに、新たな視点を加えることになり多くの支持を得ました。今年12月には4年に1度開かれ、政府代表も参加する赤十字国際会議が開催されます。しかも今年は、広島・長崎への原爆投下から70年を迎えます。被爆者の高齢化が進む中で、彼らの直接の声を届けられる残されたわずかな機会として、私たちは、この会議で志を同じくする社とともに、核兵器廃絶を願う人類共通のメッセージとして強く打ち出せればと考えています。

今年はさらに、阪神・淡路大震災から20年目という節目の年にも当たります。この震災の際、名誉総裁皇后陛下のご意向も反映して「こころのケア」への取り組みが本格的に始まりました。その後、「こころのケア」は日本赤十字社の災害救護の中に正式に取り入れられ、東日本大震災では、活動の柱の一つとなりました。1月17日、神戸で開催された阪神・淡路大震災の追悼式典に参加した私は、被災者のこころのケアが長期にわたって必要であることを改めて感じているところです。

他方、阪神・淡路大震災には多くのボランティアが救援活動に加わり、「ボランティア元年」とまで言われましたが、状況のまったく異なる東日本大震災においては、ボランティアの力を十分に引き出すことはできませんでした。しかし二つと同じ災害はなくとも、災害の現場の最も近くにいて柔軟に迅速に対応できるのは、ボランティアを置いてほかにないことは明らかであり、その活躍の機会と場をより充実して行きたいと考えております。

赤十字は原則の一つに「奉仕」を掲げております。本日、ここにお集まりの代議員の皆さまは、赤十字ボランティアの一員でもあります。赤十字の活動はボランティアの皆さまの力なくしてはありえませんし、赤十字の今後の方向を決めていくのも、赤十字ボランティアである皆さま自身ということになります。私たち役職員も、皆さまと心を一つにし、共に歩みながら、赤十字の一層の発展のため力を尽くしていくとの決意を最後に申し上げ、挨拶といたします。

日本赤十字社 社長 近衞忠煇