平成26年6月 第84回代議員会あいさつ

 本日はご多用のところ、代議員会にご出席をいただき、誠にありがとうございます。本日の代議員会では、平成25年度の決算についてご審議いただくこととしておりますが、始めに、近年の赤十字が内外で直面している課題とそれらへの取り組みについて申し上げたいと思います。

 今年は「献血の推進について」閣議決定されてから50年となる節目の年であります。当時、高まりつつあった血液の需要は、大半が売血で賄われ、それ自体が社会問題であると同時に、血液の安全性や効果も問題となっていました。

 地方自治体等の運営する血液銀行も多く残っており、献血一本にしぼり、その運営を日本赤十字社に集約してゆく道程は、決して平坦ではありませんでした。

 そこで、日本赤十字社の名誉副総裁皇太子殿下のご臨席の下に、献血の普及・周知を目的として「献血運動推進全国大会」を毎年開催してきたところであります。すでに開催地が全国を一巡し、昨年から二巡目に入ったところです。

 国際赤十字・赤新月社連盟は1936年に、赤十字の輸血事業への貢献の可能性を取り上げ、第二次大戦直後の1946年には献血の原則を訴え、さらに1948年には各国赤十字社に対し、血液センターの設立を勧告しております。

 そして、日本赤十字社は、その4年後の1952年に血液事業を開始しました。海外でも、同じ時期に血液事業に乗り出した社は多くあり、第二次大戦後、赤十字の国内活動の中で最も飛躍したのは血液事業といっても過言ではないでしょう。

 ところがやがて、輸血による肝炎やエイズへの感染が深刻な問題となり、一部の社では信頼が著しく傷ついた上に、多額の賠償責任を背負わされることになって、社の存亡の危機に立たされました。

 血液事業を推進してきた連盟にもその責任が及ぶことが懸念されたことから、連盟は2011年に血液事業に関するポリシーを採択し、その中で、各国の赤十字社は献血者の募集のみを推進し、リスクを伴う採血等の活動は、最終的な責任を国が負うとの合意がある場合のみ行うべきとしています。一国で起きた大きな事故やその賠償責任が、各社の連合体である連盟にも及ぶと判断されたわけです。

 なお、日本赤十字社においては、血液事業の管理責任体制を明確化するため、ちょうど10年前に血液事業に本部制を導入し、さらに2年前から血漿分画製剤部門を新法人に移管し独立させました。

 こうした構図は血液事業に限った話ではなく、国際的な救援活動にも当てはまります。連盟を通じて寄せられた救援金について、被災国の赤十字社が適切な処理を怠ったり、十分な報告を出さなかったりした場合、窓口となった連盟の責任が問われることになります。

 最近起きた例では、ある国の災害救援のために資金を提供した最も大きな援助機関の一つが、被災国赤十字の不正行為を正せなかった連盟の監督不行き届きを理由に、その体制の整備が進むまでの間、援助を控える決定を下し、それが他の援助機関の方針にも影響しないかが心配されています。

 とはいえ、連盟は各国の赤十字社が構成している組織であり、それぞれ法的にも財政的にも独立している各国赤十字社の主権にどこまで介入できるかは微妙な問題であるのも事実です。

 私たちにとっては、姉妹社は海外の仲間といった認識かもしれませんが、その中の一つが問題を起こせば、赤十字全体の評判を落としかねず、決して他人事ではなくなります。グローバルな時代にあって、連盟の最重要課題の一つは、問題のある社を作らず、またいかに救うかであります。

 そこで2011年に、各社が自己評価をするシステムを導入しました。94の項目を、国際チームの応援を得て五段階で評価するもので、既に50社以上が実施しています。日本赤十字社は、昨年12月に行い、さまざまな改善すべき課題が浮かび上がり、目下それに取組んでおります。

 インターネットの普及ともあいまって、資金集めもグローバル化、ボーダーレス化しています。人道的ニーズが高まる一方で、財源を巡る競争は激化しており、先進国、途上国を問わず、どこの国の赤十字社も資金集めに苦労しています。

 資金集めの手法が多様化すれば、それだけステークホルダーに対する説明責任が複雑になるのは避けられません。寄付者への説明が十分になされなければ、納得が得られず、信頼が揺らぎ、批判を浴び、競争に勝ち残れず、やがて活動に大きな支障を来たします。

 日本赤十字社が海外から支援を受けることは極めて稀ですが、東日本大震災では多くの寄付者から多額の救援金が寄せられました。その使い方についても、私たちはあらゆる機会を捉えてステークホルダーへの説明責任を果たすべく努めました。また、初めて国際基準に則って会計監査を行い、海外向けにも多様な説明資料を用意し、救援活動全般について国際的な評価も受けました。

 日本赤十字社は今年度、「災害からいのちを守る」をスローガンとして掲げていますが、それを実現するには平素から赤十字の活動に対する国民の理解と信頼が不可欠であります。その積み重ねが、いかに大切であるかは、東日本大震災の後、義援金を募集するにあたっても痛感したところです。

 医療事故一つをとっても、その対応を誤るならば、日本赤十字社全体のイメージと信頼が損なわれます。そこで、すべての赤十字病院での医療安全推進体制を整備してきました。また、社業全般の適正な運営を図り、より外部への説明責任を果たすために、数年前に本社にコンプライアンス統括室を設けました。

 日本赤十字社の活動の健全な運営を確保するためには、皆さま方「ガバナンス」の役割が重要であることは明らかであります。ガバナンスのあり方は近年著しく変わってきており、ガバナンスに対する事務局の向き合い方も当然変わらなければなりません。

 その意味では、多くの方から最近、会議の進め方や説明が「分かりやすくなった」とお誉めの言葉をいただき、私たちの努力が実を結びつつあると感じております。

 いまや、「赤十字は何をやっているかよく分からないけれど、信用があるから」といったイメージでは立ち行かない時代です。透明性を高め、十分な説明責任を果たし、理解し納得していただいたうえで、協力を仰ぐ姿勢が求められています。そして、それは国内に限った話ではなく、世界にネットワークを広げる赤十字全体としても考えていかなければならない問題でもあります。

 もはや、自分の社だけがしっかりやっていれば済むという時代ではなく、問題を抱える社や弱い社は、皆で助け合っていくことが全体の健全性を守るうえで欠かせなくなっています。

 代議員の皆さまにおかれましても、日本赤十字社の活動について活発なご議論をお願いすると同時に、国際赤十字の重要な一員でもある日赤の代表として世界にも目を向けていただき、積極的にご意見を寄せていただくようお願い申し上げ、私からの挨拶といたします。

日本赤十字社 社長 近衞忠煇