平成26年3月 第83回代議員会あいさつ

 本日はご多用のところ、代議員会にご出席をいただき誠にありがとうございます。

 本日の代議員会では、平成26年度の事業計画と収支予算をご審議いただくこととしておりますが、はじめに、日本赤十字社を取り巻く環境と、今後の進むべき方向について、私なりの考えをお話ししたいと思います。

 私は2009年より国際赤十字・赤新月社連盟の会長を一期4年務めて参りましたが、昨年11月、オーストラリアのシドニーで開催された連盟の総会で再選されましたことを、ここで改めてご報告申し上げます。

 選挙にあたっては、ご列席の皆さまを始め多くの方々から激励を、そして再選後にはお祝いをいただきました。心より御礼申し上げます。

 選挙結果につきましては、前回と同じ対立候補であったベネズエラ赤十字社社長との一騎打ちとなりましたが、得票の差は、前回が37票だったのに比べ、今回は9票とごく僅かでした。世界情勢の変化がその背景にあったと感じております。

 近年、ヨーロッパやアメリカなど先進国の経済が低迷して途上国への支援が減少しているのに対し、中国、インド、東南アジア、中近東、アフリカなどの多くの国が経済発展を続けております。それに伴い、赤十字の世界においてもこれらの国々の社が自立したり、「支援される側」から「支援する側」へと変わりつつあります。

 また、北から南へという従来の支援の流れに加えて、東日本大震災のように先進国の災害に発展途上国が支援の手を差し伸べたり、また南と南、つまり途上国同士の協力も増える傾向にあります。

 昨年11月に大きな被害を出したフィリピンの台風は記憶に新しいところですが、その支援の現場では、旧来の支援社に加えて、これまで目立たなかった中近東や発展途上国と言われた国々の社が救援に駆け付けていました。

 こうした中、日本赤十字社を含むいわゆる伝統的な支援社ないしは西側の主導で進められてきた国際赤十字の従来の体制に挑戦するような動きが出てきても不思議ではなく、今回の一連の選挙では、そうした対立が表面化した面があったと考えております。

 各国の赤十字社が、戦時から平時の活動に比重を移し、その推進のために赤十字社連盟を設立したのは第一次世界大戦直後ですが、歴史のある社のほとんどは、第二次世界大戦後に社会主義や福祉国家が急速に広まる中で、伝統ある活動であった医療や福祉の分野を政府に移管して手を引きました。

 その一方で西側の社は、政府の支援を受けて国際救援活動や発展途上国の社を支援する活動に活路を見出してきました。その政府の支援が経済不況で減少したことで、発展途上国への影響力も国際的な発言力も弱まりました。

 国内活動が弱い社は、国内の支持基盤も不安定とならざるを得ません。その上、国内外の人道分野で活動する団体は増加しており、財源を巡る競争も激化しています。

 こうした中で、各社は新しい事業や安定的な財源を真剣に探しています。旧社会主義国の多くでは、政府に没収された財産の返還を求めたり、伝統的な医療や福祉の活動への回帰を探る動きも見られます。

 対照的に、日本赤十字社には、大きな国内事業があります。全国の病床の約2.3%を占める92の病院を持ち、年間延べ3千万人余りの患者さんを診察しています。

 血液事業では、毎年500万人を超える献血者のご協力をいただき、100万人近い方々の生命と健康を守っています。我が国の看護師の約2.7%は赤十字の23の教育施設で養成されています。

 その他、29の子どもや障がいのある方、高齢者のための施設を各地で経営していますし、救急法や健康を守るための講習も全国的に行っております。赤十字奉仕団やボランティア、青少年赤十字の全国的なネットワークも持っています。

 大災害時には、これらすべてが協力して救援活動に当たります。

 こうした多彩な事業を展開していることが、かえって国民の目に日本赤十字社の全体像をつかみにくいものにしているかもしれません。いろいろなイメージ調査の結果はそれを物語っています。

 近年、人々の目は関心のある事業にのみ向けられる傾向が強まっております。例えば、特定の災害への義援金は多く集まるものの、日常的な活動を支えるための一般の社資募集や、社員組織の維持などは年々難しくなってきております。そのことは、地域でご協力をいただいている皆さまも実感しておられることと思います。

 それは先進各国の社の共通の問題であり、その答えは新しい時代に相応しい事業をいかに展開し、いかに他との差別化を図り、優位性を発揮し、それを効果的に広報していくかにかかっていると思います。

 活動財源の確保は、地域に根ざした赤十字ボランティアの方々のご協力によって社員を募り、社費を集めていただく方法がベストではあっても、地域社会が崩壊し、国民意識が大きく変わる中で、これまでの伝統的なやり方だけでは通用しなくなっているのも事実です。

 インターネット、ソーシャルメディア、ダイレクトメール、企業との連携など、地域や国の壁までを越えた新しい財源確保の方法を各社とも模索しています。

 私たち日本赤十字社の多彩な活動は、ともすれば6万3000人を数える職員中心になりがちであり、公称220万人としている赤十字ボランティアの力を、もっと有効に活用し、活動の中心に位置付けていく努力が必要であると感じています。

 東日本大震災では、全国の赤十字奉仕団やボランティアがさまざまな活動を積極的に行っていたにもかかわらず、その活動実態をなかなか把握できず、救援の仕組みの中に取り込んでいけなかったという反省が残りました。

 特に義援金の募集には多くの奉仕団や青少年赤十字に関わっていただき、これまでに受付件数で約300万件、金額にして約3300億円を超える金額が日本赤十字社に寄せられています。

 これらの義援金は、約45万件の被災者の元に現金でお渡ししていますが、地方自治体を通じて行うために、「赤十字のお世話になった」という気持ちを持っていただけなかったり、義援金の使途がよく分からないという方が未だに多くおられるのは、残念なことです。

 被災者にも寄付者にも、もっとPRが必要であることを痛感すると同時に、制度的に明確になっていない義援金の扱いを、政府や地方自治体も交えて議論を進めているところです。

 近年、地球温暖化等による異常気象により、世界的に大規模な自然災害が多発しています。日本でも、昨年の台風の数は記録的でしたし、夏の猛暑はすさまじいものでした。

 その中で昨年11月、フィリピンで台風による大災害が発生し、私は翌12月に国際赤十字・赤新月社連盟の会長として被災地を訪問しました。今もなお、日本赤十字社を含む各国の赤十字社が支援活動を続けています。国際赤十字全体では、今後の復興も合わせて、300億円規模の支援となる見込みです。

 広い地域が被災し、紛争地域も含むことから、政府の力が及ばないところも多く、フィリピン赤十字社は各国赤十字・赤新月社や赤十字国際委員会と協力しながら、給水、医療、救援物資の提供、こころのケア、遺体の収容、瓦礫の撤去等、やれることは何でもやっています。その中心は地域の草の根レベルにまで張り巡らされたボランティアのネットワークです。

 これからの最大の課題は、復興に赤十字がどのように関わっていくかにあり、緊急の救援にのみ関わってきた日本赤十字社も、東日本大震災後、国際赤十字・赤新月社連盟から、復興支援についての基本的な政策を持っていないという厳しい指摘を受けました。

 大規模災害にあっては、行政の能力にも限界があり、救援活動は行政の下請けだけに甘んじていられる時代ではありません。ボランティアのより組織だった参加や、先端的な技術やアイデアを取り入れての救援や募金、復興など、自らの創意工夫が求められています。

 赤十字が誕生して150年余、その原点はボランティアの精神であることを忘れることなく、これからも皆さまとともに赤十字事業の推進に邁進していくことをお誓いし、私からの挨拶といたします。

日本赤十字社 社長 近衞忠煇