平成25年10月 第7回アジア救急医学会(ACEM 2013)開会式あいさつ

 第7回アジア救急医学会にご列席の皆さま、本日はあいにく世界188カ国の赤十字の連合体である国際赤十字・赤新月社連盟の公務と重なり、直接会場で皆さまにご挨拶に伺えないのですが、アジア各国で災害医療の最先端に従事される皆さまに対して、このようにメッセージを寄せる機会をいただき、誠に光栄であるとともに、ご配慮くださいました有賀会長に厚く御礼申しあげます。

 2011年3月11日に発生した東日本大震災の後、わが国には90カ国以上の人々から思いがけない支援が寄せられました。世界中の人々が日本の被災者に心を寄せ、支援の手を差し伸べてくださったことに、この場をお借りして、深く感謝の意を表します。

 ご存じのとおり、アジアは自然災害が大変多い地域です。世界における自然災害の死者の内、8割以上がアジアの洪水、津波・高潮、暴風といった自然災害で、またその中でも6割以上を占めるのが地震です。日本は、マグニチュード6以上の地震回数が全世界の約25%を占めるほどの地震国であり、その地形、地質、気象やさまざまな条件から台風や洪水などを含む自然災害とは切っても切れない歴史を歩んできました。

 それ故、日本では政府主導による防災に関する活動を全国で展開していますし、地域ごとにさまざまな訓練も行われ、屈指の「防災先進国」と言えるでしょう。

 しかしながら、2011年の大災害は私たちの想像をはるかに超え、死者・行方不明者は2万人を超えました。また家や、職場、そして家族を失った人々は40万人に上ります。それから2年余り、被災地の本格的な復興への道程は程遠く、今もなお多数の被災者が、元の生活に戻れる見通しの立たないまま不自由な避難生活を余儀なくされています。

この悲惨な経験を通じて私たちが改めて学んだことは、被災者を対象とした救援や支援は、ありとあらゆる分野の人々の協働であるということです。けが人、病人、障がい者、高齢者、児童を対象とした医療、看護、介護に留まらず、住居の提供に始まり、生活物資、資金援助、その他地域復興にかかる行政や地域のさまざまな役割に加え、被災者の精神的なストレスケアに至るまで、さまざまな役割や機能のコラボレーション力が問われます。

 その中で、日本赤十字社では義援金の募集とその管理窓口としての役割のほか、災害発生直後から6カ月にわたり日本全国から延べ9千人の災害救護員(災害医療チーム)を派遣して、救護に携わりました。

 それが可能となった理由は、日赤では、140年前の設立初期の段階から自然災害に対する救援のための人員を育成し、病院を設置していざという時のための備えと実践を繰り返し、今では全国に92の病院を持ち、常時434班の救護班(医療チーム)がいつでも被災地に向かうことができる仕組みがあるからです。最近では国の医療チーム派遣システムであるDMATと連携して訓練や実践活動を展開しています。

 また、赤十字は「救護から復興へ」、「復興から開発へ」という一連の流れを後押しすることを方針としています。草の根でそれを支えるのはボランティアです。東日本大震災の後、行政の手はしばらく被災者の元に届きませんでした。その隙間を埋めることができるのは、被災者の近くにいるボランティアしかありません。日本赤十字社のボランティアは、募金活動や被災地域での炊き出し、物資の運搬に至るまで、さまざまな活動を担いました。

 各国の赤十字・赤新月社には、ボランティア活動を事業の柱としている社が多く存在します。ぜひ、皆さんの国の赤十字・赤新月社の活動について関心を寄せてください。互いの力を、いかにより良く引き出すかが、「人道」の裾野を広げ、光の当たらないところにまで支援の手を行き届かせるための鍵となるでしょう。

 こころのケアも重要な課題の一つです。こころのケアを必要とするのは、災害や事故の直接の被害者だけではなく、その家族、友人、同僚にもおよびます。また、救護活動に当たる関係者たちが負う心の傷も、しばしばPTSDやトラウマにつながることが明らかになっています。日本赤十字社はボランティアを含むこころのケアチームを被災地に派遣し、発災から2年余りが経過した現在もなお、活動を続けているところです。

 近年災害が各地で多発し、激化する傾向にあることに、赤十字は大きな関心を寄せています。なぜならば、災害によって多くの国が貧困や人口の移動を引き起こし、生活環境を破壊し、社会の緊張を生むからです。時には、政治の混乱や紛争にまでに発展します。被災者の生死を分ける緊急の救援活動は、当然おろそかにはできません。その先には、将来の災害に備えた、より強い社会の体力作りが求められます。

 悲劇から人々の間に同情と友情が生まれ、また国と国との間に友好を育んだ例は、歴史上枚挙にいとまがありません。グローバルな時代である今こそ、一層「情は人の為ならず」との言葉が大切に思われます。今後も起こり得る自然災害に備え、災害医療の発展は欠かすことができない重要な課題であります。アジアの国々がお互いに力を合わせることで、少しでも被災者の不幸が軽減され、また、それぞれの国がさまざまな困難に立ち向かってゆくためのノウハウが共有されるためにも本学会は大変有意義なものであると信じております。この極めて重要な学会のご成功を心よりお祈りし、ご挨拶とさせていただきます。

日本赤十字社 社長 近衞忠煇