平成25年6月 第82回代議員会あいさつ

 本日はご多用のところ、代議員会にご出席をいただき、誠にありがとうございます。

 本日の代議員会では、平成24年度の決算についてご審議いただくこととしておりますが、はじめに、現在、赤十字が抱いているいくつかの大きな関心事について、私なりの考えを申し上げたいと思います。

東日本大震災から2年~日々寄せられる義援金~

 未曾有の被害をもたらした東日本大震災から、早くも2年余りが経過しました。しかし、被災地の本格的な復興への道程はほど遠く、今もなお多数の被災者が、元の生活に戻れる見通しの立たないまま不自由な避難生活を余儀なくされています。私たちは、一瞬たりともこの災害を忘れることは許されません。実際に国民の皆さまからも、今でも毎日200〜300件、金額にして2千万円前後の義援金が日本赤十字社に寄せられています。

 その義援金のあり方については、寄せられたさまざまな意見をふまえ、関係機関とも調整の上、どのように見直していくかについて、日本赤十字社として考えをまとめた報告書を出したところであります。理事会や代議員会でも話題となったことでもあり、皆さまからも引き続き、ご意見をいただければ幸いです。

将来の災害に備えたより強い社会へ

 さて近年、異常気象によって災害が世界各地で多発し、かつ激化しています。国際赤十字・赤新月社連盟が発行している「世界災害報告」によれば、2002年から2011年までの十年間と、それ以前の10年間の災害発生件数を比べると、およそ1.4倍に増加しています。

 こうした傾向に赤十字は大きな関心を寄せています。なぜならば、災害は多くの国で生活環境を破壊し、貧困や人口の移動を引き起こし、社会の緊張を生むからです。時には、それが政治の混乱や紛争にまで発展しています。

私たちは、これからも被災者の生死を分ける緊急の救援活動に全力をあげることは言うまでもありませんが、その先にある、将来の災害に備えた、より強い社会に向けた体力づくりも求められています。国際赤十字は、救護から復興へ、復興から開発へという一連の流れを途切れることなく後押しすることを、明確な方針として打ち出しています。

 草の根でそれを進められるのは、人々の善意を結集できるボランティアのネットワークです。わが国ですら阪神淡路大震災や東日本大震災の後、行政の手はしばらくの間、被災者の元に届きませんでした。そのすき間を埋めることができるのは、被災者の近くにいるボランティアしかあり得ません。ボランティアを日頃から引きつけ、その力をいざという時にいかに引き出すことができるかに、赤十字の将来がかかっていると言えるでしょう。

中東諸国への支援の現状

 さて、歴史を振り返れば、赤十字は戦争の犠牲者を敵味方の区別なく助けるために生まれました。そのために求められるのは厳正な中立であり、いわばその守護神として赤十字国際委員会は、今から150年前に設立されました。

 それでは、国内紛争が激化している中東のシリアで、中立な救護活動はどこまで可能でしょうか。シリアではこの2年の間に、すでに9万3000人が亡くなり、およそ164万人が隣国に流出し、680万人が継続的な人道支援を必要としています。

 シリア赤新月社は、こうした人々すべてに公平に支援が行き渡るよう、国際赤十字を始めとする国連や国際人道支援機関の唯一の窓口として、それらの協力を支えに活動を展開してきました。しかし、政府の支配が及ばない地域での活動には多くの制約があります。隣国からの国境越しの支援には政府が反対しているため、人道支援の行き渡らない空白地帯が生まれています。そうした中で活動を続けるシリア赤新月社は、治安の悪化によって20人もの殉職者を出し、活動は日に日に困難を増しています。

 私は去る5月21日、隣国のレバノンから陸路でシリアの首都ダマスカスを訪れ、赤新月社の関係者を激励すると同時に、政府高官とも面会して赤十字・赤新月が中立、公平の原則に則って活動できるよう保証してくれるよう要請しました。

 同じ時に訪れたシリアの隣国のトルコ、レバノン、ヨルダンには大量の難民が流入しており、各社はその支援に追われています。特にヨルダンには、元々の人口が650万人のところに、パレスチナ、イラク、エジプト、それにシリアの難民など合計500万人近くが身を寄せており、飲料水や食料の不足に加え、彼等を支えている家庭、地域社会、政府の負担は限界に達しています。国際社会の目がもっぱらシリア国内に向けられる中で、難民流入の重圧に悩むこれらの国の政府、赤十字・赤新月関係者は、異口同音に支援を訴えていました。

 国際赤十字全体では、シリア内外の救援に総額293億円相当のアピールを発しており、日本赤十字社は約7300万円を拠出しています。「中立」のシンボルであるはずの赤十字や赤新月のマークすら尊重されない現実の中でやれることには自ら制約があり、人道の空白を埋めるためリスクを犯し、国際的な協調のルールを無視して活動している社もいくつかあり、国際的な人道支援活動は大きな試練を迎えていることをご報告しておきます。

核兵器の使用禁止と廃絶に向けた取組み

 時代の変化と共に歩むことが求められているなか、赤十字は近年、核兵器のもたらす人道的影響に焦点をあて、その使用禁止と廃絶に向けた取組み強化を呼びかけてきました。

 2011年の赤十字・赤新月運動代表者会議は、核兵器に対する赤十字の立場を明確にする決議を採択しました。過去2年間に、この決議はさまざまな国際会議の中で引用され、核兵器を政治や軍事ではなく、人道的な視点から議論するという大きな世界的な流れを作り出してきました。

 こうした成果を、次なる行動にどのようにつなげていったらよいかを話し合う検討会議を、日本赤十字社を中心とした数社の呼びかけで、この5月に広島で開催いたしました。会議には、24カ国の赤十字・赤新月社、赤十字国際委員会、国際赤十字・赤新月社連盟が参加し、今年11月に予定されている国際会議で採択する決議と行動計画の案などを議論しました。

 行動計画案の中で、日本赤十字社には、核兵器のもたらす人道的影響を世界に発信し、核兵器の廃絶に向けた議論に貢献することが期待されています。

昭憲皇太后と赤十字

 振り返れば1888年、会津磐梯山が大噴火した時、日本赤十字社は明治天皇のお妃であった後の昭憲皇太后の直々のご下命により、設立したばかりの最初の日赤病院から小規模な救護班を派遣しました。その後、災害救護は時代とともに日本赤十字社の活動の大きな柱に育って今日に至っています。それが、東日本大震災での日本赤十字社の活動につながっております。

 昭憲皇太后は、日頃から赤十字活動に格別な関心を寄せられ、1912年に、海外の赤十字社の平時の事業を推進するためとして、現在の金額で3億5千万円相当のご寄附を賜り、これにより昭憲皇太后基金が生まれました。

 昨年、同基金が創設100周年を迎えたことから、日本赤十字社では特別募金をお願いしておりましたが、このほど、天皇皇后両陛下からのご下賜金に、皆さまからの寄付金などを加えた3億8500万円を、ジュネーブの昭憲皇太后基金管理合同委員会に送金することができました。その結果、基金の総額はおよそ15億400万円となり、より多くの途上国の人々が、その恩恵を受けられることになります。

国際赤十字・赤新月社連盟会長の再選を目指して

 これまで日本赤十字社は、災害救護を皮切りに医療、福祉、血液事業等、さまざまな平時の活動に早くから関わり、模範となってきました。

 日本赤十字社のこうした長年にわたる国際的な貢献が評価されたこともあり、三年半前の国際赤十字・赤新月社連盟の総会で、私はアジアから初めて会長に選出されました。その後、訪問した国は40カ国に上り、スローガンとしてきた「連帯の精神」を各社間に醸成する上で、それなりの成果を上げられたと自負しております。

 この11月の総会で任期を迎えますが、再選を求める声がこのところ日増しに高まっており、立候補を近く正式に表明することにいたしました。国内での活動に支障を来すことがないよう努めることをお約束し、日本赤十字社の歴史に新しい1ページを加えることになる、この再度のチャレンジをお認めいただきたくお願いいたします。再選された暁には、赤十字に託された皆さま方の思いが、国際的な場でも反映されるよう微力を尽くすことをお約束し、私からの挨拶といたします。