平成24年3月 第79回代議員会あいさつ

 本日はご多用のところ、代議員会にご出席いただきまして誠にありがとうございます。

 本日の代議員会では、平成24年度の事業計画と収支予算をご審議いただくこととしておりますが、私からは、まず、昨年3月11日に発生した東日本大震災に際して皆さまからいただきました多大なご支援に対し、厚く御礼を申し上げます。

東日本大震災

 大震災の発生から、早くも1年が経過しましたが、いまだに多くの地域では復興の基本計画すら固まっておらず、34万人を超える被災者が避難生活を余儀なくされ、原発事故の被災者の多くは、故郷に戻る見通しすら立っていないことを思うとき、本格的な復旧・復興の道のりは遠いと判断せざるを得ず、日本赤十字社としても息の長い支援を続けていかなければなりません。そのための予算、144億円を平成24年度には計上しております。

 今回の大災害に対し、日本赤十字社はいち早く被災地に入り、全社をあげて過去最大規模となる救護活動を展開いたしました。活動に参加した医師や看護師は7,000人を超えました。そして活動期間は阪神・淡路大震災のときの2カ月半より3カ月半長い6カ月となりました。

 それが可能となったのは、石巻赤十字病院の救援の拠点としての活躍とともに、全国の赤十字病院や施設のしっかりとしたバックアップ体制があったからに他なりません。

 発災直後の多数の救護班の派遣、救援物資の配付、仮設住宅等への生活家電セットの寄贈、また、こころのケア活動や看護師による健康相談、被災地はもとより全国の青少年赤十字や赤十字奉仕団によるさまざまなサービスの提供など、現在も継続している活動も多くあり、その時々のニーズに応えた活動ができていると自負しており、直接、間接に関わったすべての皆さんを誇りに思い、感謝しております。

義援金の募集、配布

 そうしたこともあってか、日本赤十字社への国民からの期待は高く、それは、これまでに日本赤十字社へ寄せられた3,104億円という義援金の額にも現れていると思います。

 義援金は、中央共同募金会に寄せられた391億円と合わせて3,495億円に達しますが、このうちの8割を超える2,909億円がすでに被災者に配分されております。また、1件あたりの配分額は、死亡・行方不明、住宅全壊、原子力発電所事故関係避難の場合は約109万円、住宅半壊の場合は約55万円で、すでに45万件の配分が終わっております。

赤十字らしい活動ができた一方で、過去に例を見ない大規模かつ複合的な災害であったことから、対応について反省点が多く残されたのも事実であります。とりわけ義援金については、配分する上での公平性や、被災者へ届けるまでの迅速性について、国民の皆さまからさまざまなご意見とご批判をいただきました。

 日本赤十字社は義援金から手数料を取っている、との誤解を解くのも大変でした。義援金の問題は日本赤十字社だけで責任を全うできるものではなく、他の関係する募金団体や国・地方自治体と問題を共有し、早急に改善に向けた努力をしていくことが必要だと考えており、すでに接触を始めております。

 また、義援金の取り扱いを含め、節目節目で日本赤十字社の活動を新聞広告において報告をしたり、各メディアのご協力を得てテレビ番組で取り上げていただいたりしてまいりましたが、まだまだ改善の余地があると認識しており、こちらも今後の大きな課題の一つです。

海外からの支援

 今回の災害には世界中が注目し、95の赤十字・赤新月社および地域等から563億円にのぼる支援をいただきました。

 約12万9,000の生活家電セットの提供、38万人を越える高齢者への肺炎球菌の予防接種、医療施設の再建、福祉・介護のためのベッドや車両の提供、児童のためのスクールバスの運行やスポーツ用具、屋内遊技場の整備などは、その支援によって可能となったものであります。

 また、クウェート政府からは我が国の一日半分の消費量にあたる500万バレルもの原油が寄贈され、その代金相当額である約400億円が、石油会社を通じて日本赤十字社に寄せられました。

 この支援金は、クウェート政府とも相談して被害が特に甚大であった岩手、宮城、福島の三県に配分され、それぞれの地域の基盤整備、医療、福祉・介護、教育、農業・漁業、原発事故対応などの復興事業に幅広くあてられることとなっております。

 近年、我が国は、海外での救援活動を支援することはあっても、海外からの支援を受けた経験に乏しかったため、スムーズな支援の受け入れについては課題が残りました。

 日本赤十字社は緊急の災害救護活動への備えはしていても、復興に大規模に関わる事態を想定していなかったために、救援金が集まってから、その活用方法の検討をせまられることになりました。

 震災発生から半年後に国際赤十字・赤新月社連盟(連盟)と共同で行った活動の評価のなかでは、海外からの支援の可能性とその効果的な活用方法を考慮して、救護と復興の計画を立てるべきだという指摘を受けており、それに応えていくこととしております。

 近年、気候変動の影響等によって途上国のみならず先進国も大きな災害に見舞われるケースが増えております。そして、先進国といえども海外からの協力を仰ぐことが当たり前になってきています。そうしたなかで、今回の日本の経験は、先進国における大規模な国際救援のあり方を見直すきっかけとして注目されております。

インターネットを活用した救護体制

 新たな時代を痛感させられたのは、インターネット社会の著しい発展振りでした。従来の組織立った情報収集や発信のシステムが十分機能しなかった一方で、ネット上で交わされる情報が救護活動にも大きく影響したからです。

 孤立した被災者がネットを通じて送った情報に多くの人々が応えるといった現象が起きたかと思えば、誤った情報が風評被害を広げる負の作用もありました。

 ツイッターやフェイスブックといったいわゆるソーシャルメディアをこれからどう救護に活かしていくかを検討すると同時に、われわれがすでに持つ全国に広がる赤十字のボランティアや奉仕団のネットワークを活かして、被災地からの生の声をくみ上げ、きめの細かい対応が出来る仕組みを作る必要があると考えております。

原子力災害への備え

 今回の大震災では原発事故という、悲惨な体験も強いられました。

 昨年1月の時点で、世界のおよそ30カ国で400基以上の原子力発電所が稼動していました。大きな事故は、これまでチェルノブイリと福島以外には起きていませんが、原発が存在するという現実がある以上、事故などの不測の事態に備えようとするのが自然であります。

一昨年来、連盟会長として、国連のバン・ギムン事務総長や国際原子力機関の天野事務局長などの要人との接触や各国赤十字社などへ働きかけた努力が実り、昨年11月に開かれた国際赤十字・赤新月社連盟総会では、赤十字として原子力災害に備える必要性を訴える決議が採択されました。

 決議の採択にあたり日本赤十字社は、原発保有国の赤十字社などを招いて、決議をフォローアップするための国際会議を日本で開くことを提案し、この五月に東京で開催される運びとなりました。

 また、連盟総会に続いて開催された国際赤十字の会議では、「国際人道法の原則に一般的に反する」とした国際司法裁判所の勧告的意見にもふれながら、核兵器の使用禁止を国際社会に訴える決議も採択されました。

 日本赤十字社は世界唯一の被爆国の赤十字社として、この決議案の作成段階から関わり、赤十字国際委員会および30社での共同提案とすることができました。

昭憲皇太后基金

 さて、今日では、「日本赤十字社といえば災害救護」というイメージがすっかり定着していますが、もともと赤十字は、どこの国であっても、戦時の救護を目的として設立されています。

 その日本赤十字社が、災害救護に活動の領域を広げるきっかけとなったのが、明治天皇の皇后である後の昭憲皇太后の存在でした。

 昭憲皇太后は日頃から赤十字の活動に格別な関心をお寄せになり、明治21年に磐梯山が噴火した際には、被災者のもとに2年前に設立されたばかりの最初の赤十字病院から医師を派遣するよう直々に命じられました。

 現在、日本赤十字社の事業の柱となっている災害救護はこの時に始まっており、これは世界的にも草分けとなるものでした。

 皇太后は海外の赤十字の活動にも広く目を向けられ、明治45年にアメリカで開かれた第9回赤十字国際会議の際、各国赤十字社の平時の事業を推進するためとして、現在の3億5,000万円に相当する10万円のご寄付を賜りました。

 これによって生まれたのが昭憲皇太后基金であり、その利子が世界中の赤十字・赤新月社に毎年、配分されてきました。これまでに配分を受けた国は157にのぼり、その実績は世界から高い評価を受けています。

 来年の4月11日まで、特別募金を呼びかけておりますので、皆さまにもご協力をお願いするとともに、100年も前に、人道支援を目的とするこのような基金が、日本の皇太后が提唱したことによって誕生した意義を広く知らしめ、協力を呼びかけていきたいと思います。

連帯の精神

 東日本大震災では、昭憲皇太后基金の配分対象となった多くの発展途上の国からも、感謝の意を込めて救援のための寄付金が寄せられました。それは金額の問題以上に、人道で結ばれた「連帯の精神」の現れでありました。グローバルな時代に生き、グローバルな人道的ネットワークの一翼を担う日本赤十字社には、この「連帯の精神」の発露である善意を被災者の方々にお届けする責任があります。

 そしてまたいつの日か、我々が「連帯の精神」を発揮して世界の人々のために役立てるよう、本日ご参集いただいた皆さまとともに、さらなる歩みを進めて参りたいと存じます。その思いを最後に申し上げ、私からの挨拶といたします。